「つぐない」 
この映画を観た理由は、アカデミー賞をはじめとする賞レースの常連だったから。
賞をとる映画が、すべての人にとって必ず素晴らしいとは限らないが、ある程度の基準にはなるはずなので、ふだんはあまり見ないジャンルの文芸作だが、チェックだ。

シアーシャ・ローナン
(c)2007 Universal Studios. All Rights Reserved.

まず少し意外に思ったのは、主役がキーラ・ナイトレイでも、ジェームズ・マカヴォイでもなく、キーラの妹を演じたシアーシャ・ローナンだったこと。映画賞なら、たいてい助演候補になるだろうが、実質的には主役といっていい。

映画は、ブライオニー(ローナン)がタイプライターで戯曲(芝居)を書いているところから始まる。
タイプライターを打つ音が、音楽になる。これが、すごく興味深く、印象的。
作曲のダリオ・マリアネッリはアカデミー賞などで受賞したが、これは納得できる。
もちろん、タイプライターを使った音楽だけではなくて、他でも美しい旋律を作っている。

タイプライターの音楽とともに、ブライオニーが部屋の中をサッサッと歩き、まるで兵隊の行進かなにかのように、直角に曲がったりするイメージは、彼女の、少女期特有(ブライオニーは、このとき13歳)の張り詰めた危うさ、余裕のなさ、堅さ、のようなものを感じさせる。
経験の少ない頃に、自分の感受性を、周囲の出来事と、どう折り合いを付けていくか。それが、とても難しい時期って、あると思う。
その事件が起きたのは、ブライオニーが、そんな時期だったせいもあるだろう。

彼女が、姉セシリア(ナイトレイ)と使用人の息子ロビー(マカヴォイ)の、ただならない場面を見てしまう。1日のうちに2度も。
しかも、その間には、彼から姉への手紙の中身を盗み見てしまう。
さらに、その夜、決定的な事件が起きる。
あれだけ刺激的なことが続けば、ブライオニーの年頃だったら、彼女でなくてもヘンになってしまうかも。
あんな手紙を間違って封に入れるかよ、とか、1日のなかであれほど立て続けに事件を目撃するか、というのも、ちょっと思うが、現実は、ありえないことではない

ブライオニーは3人の女優によって演じられる。
もっとも素晴らしいのは13歳のブライオニーを演じたシアーシャ・ローナン。映画のカギとなる部分なので印象深いのは当然になるが、演技の的確さは文句のつけようがないくらい。
はやくも主演作品が控えていると、ちらりと噂に聞いたが、それも納得だ。

ロモーラ・ガライ
(c)2007 Universal Studios. All Rights Reserved.

続いては、ロモーラ・ガライが18歳の時を演じる。ロモーラといえば、「エンジェル」の彼女は素晴らしく、個人的に昨年度の主演女優賞に推したくらいだが、本作では出番が少なめだったし、シアーシャと比べて顔がぽっちゃりしていたので、私には、ほんの少し違和感があった。達者なシアーシャのあとで、見どころも少ないので、ちょっと損な役だ。
最後には老年期で、、ヴァネッサ・レッドグレーブが。大物をもってきましたね。ここは最後に、あっと驚くところで、ちょいと出てきてお得感たっぷりだ。

見ていないものを見た、と言うブライオニーを正面から捕らえ、「私の、この目で、見た」と言わせ、ロビーの母が「うそつき!うそつき!」と警察の車に向かって叫び続ける(ロビーの母を演じるのは、これも名女優ブレンダ・ブレシン。彼女も、ちょいと出なのだが、ここが見せ場になる。)、その声が、離れた屋敷から外の様子を見ているブライオニーの胸に突き刺さっていく。
この描写の巧さ。まるでベテラン監督の作品のようだが、本作の監督は、2005年の「プライドと偏見」が長編初監督となったジョー・ライト。

同じ出来事を視点を変えて繰り返す手法も使っていて、なんだか先日観た「バンテージ・ポイント」を思わせた。

映像的に特筆したいのは、戦地での長回し撮影(撮影を切らずに、一度に長々と撮り続けること)。
ロビーたちがたどりついたのはダンケルク。この地からフランス・イギリス軍が撤退するわけだが、カメラはロビーたちの足取りを追いながら、ここにいる大勢の兵士の様子、海岸の様子をも撮っていく。
途中で、あ、この撮影は長いな、カットされてないぞ、と気づいて、そこから注意して観ていた。
長回しだから、どうだ、ということでもないが、撤退現場を延々と続けて映すことによって、永遠に続きそうな虚しさ、のようなものを出すことはできるのではないだろうか。

セシリア(愛称シー)を演じるキーラ・ナイトレイ
(c)2007 Universal Studios. All Rights Reserved.

ラストでは、ブライオニーがおこなった罪滅ぼしが明かされる。彼女の「贖罪(しょくざい)」(イアン・マキューアンによる原作のタイトル)。
人間の悲しさ、あやまちがドラマティックに描かれた、文芸の香り高い一作だ。

3月に54歳の若さで急逝したアンソニー・ミンゲラ監督(「イングリッシュ・ペイシェント」〔1996年〕、「コールド マウンテン」〔2003年〕など)が、ラスト近く、テレビのインタビュアー役で登場。最初で最後の映画出演となった。

(4月20日)

ATONEMENT
2007年 イギリス・フランス作品
監督 ジョー・ライト
出演 シアーシャ・ローナン、ジェームズ・マカヴォイ、キーラ・ナイトレイ、ロモーラ・ガライ、ヴァネッサ・レッドグレーブ、ブレンダ・ブレシン、ジュノー・テンプル

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評価☆☆☆★(3.5点。満点は5点)
 
こんにちは〜♪ 
大型連休に入りましたね〜。

私もシアーシャ・ローナンこそ、この映画の主役だと感じました。
彼女の演技を含め、すべてに繊細さが滲み出ている映画でしたね。
タイプライターの音、紙が擦りあう音、しずくのしたたり落ちる音までが
情景の一部となって心に響いてきました。
ブライオニーの罪滅ぼしは、あれでよかったのでしょうか・・・?
>マーちゃんさん 
こんにちは!
大型連休の始まりなんですね、一応。前半は休みが飛び石なので実感なしです。
繊細さを維持したのは、やはり監督の手腕でしょうか。
こんなクオリティを保っていってほしいですね。
ブライオニー…他にどうしようもなかったような。

相互リンク、ありがとうございました!
なつかしい映画でもお付き合いできたら、いいですね。
 
こんばんは☆ボーさん
コメントとリンクありがとうございます。

ご覧になりましたか〜
個人的にはこの映画すごく楽しめて気に入ったので今年のトップ入りです(はやすぎ)
シアーシャ・ローナンのちょっと生意気そうな感じすごくハマってましたよね〜。
オトナになってもおばあちゃんになってもあの髪型貫いてるのには笑いましたけど
分かりやすかったし。
『エンジェル』観てないから観たいなー。
>migさん 
こんにちは!
今年のトップですか!? いま1年の3分の1…えっ、もうそんなに?
私のトップは、まだ「潜水服」です。

シアーシャはよかったですね。主演女優賞あげればいいのに。3分の1くらい。
「エンジェル」は、ぜひ見てくださいまし〜。
こんばんは★ 
ボーさんの今年のベストは今のところ『潜水服〜』ですか。
嬉しいです!私もですよ。
本当、シアーシャ・ローナンは演技がすごくて、ロモーラ・ガモイがかすんでしまいましたね。
ボーさんはキーラ・ナイトレイはそれほどでもなかったですか?
私は、彼女のツンデレぶりに、やられてしまいました。素敵(笑)
こんばんは! 
お久しぶりにお邪魔いたします!
美しくて、切ないお話でしたね。
手紙を送り続ける恋人。
志願して戦場に行ったものの、彼女に辿り着きたい若者―ってところで、
「コールド・マウンテン」をダブらせながら観ていました。

潜水服〜、観てないので(あまりに辛そうで、)
本作が今のところ上位にきました。
>とらねこさん、kiraさん 
とらねこさん、おはようございます。
そうですね、「潜水服〜」は期待以上に見事でした。これを超える映画に今年出会いたいところです。
やっぱりシアーシャが、私の中では目立ちました。キーラはそれほど印象になかったですねー。

kiraさん、おはようございます。
あ、そうか、「コールド マウンテン」…私はちっとも思い出しませんでした! 「コールド〜」の監督ミンゲラさんが出演しているのも何かの縁かも。
「潜水服〜」はDVDででも、チェックしてみてくださいね。
 
ボーさんこんにちは
ブライオニー(シアーシャ・ローナン)の演技力と存在感は凄かったですね。完全にキーラが食われていましたね。
さすがゴールデングローブ賞・最優秀作品賞を受賞しただけあって、純正統派ドラマで見応えがありました。
犯した罪のつぐないは、何10年間も悩み続けたということで拭われたのではないでしょうか。
僕達も子供の頃に何気なく犯している罪があるはずです。彼女のように一生悔いに残るような罪ではありませんが、いまになってそれを思い出すとぞっとすることがありますよね。でも普段は忘れています・・・。思い出したくない思い出ってありますよね。
>ケントさん 
こんばんは!
テーマからしても、ブライオニーが主役でした。
きっと小さな罪は、誰でも記憶の中に、なにかしらありますよね。
このドラマ、大人になりきらない頃の罪を一生責められるというのも酷な気もします。でも、ここまで大きな罪になるのは、戦争があったり、いろんな要素が合わさったので、これも人生なんでしょうかねえ。
TBとコメントありがとうございます。 
 観たくて仕方ない映画でも、映画僻地に住む私は、観るのは1年後になってしまいます。でも待った甲斐がありました。私は文芸ものは好きなジャンルですので。
 いかにもヨーロッパ映画らしい雰囲気に満ちていたと思います。ダンケルク・シーンもさることながら、私はちょっぴり挿入される劇中劇が堪らないです。
 たしかに、シアーシャ・ローナンはキーラ・ナイトレイを喰っていましたね。
>アスカパパさん 
文芸ものとしては、私が最近観たなかでは、いいなあと思えるものでした。
そうですね、イギリスとフランスの製作、俳優はほとんどイギリス。
シアーシャは、そういえば、その後の出演映画、見てないですね。単に私が見ていないだけかどうか…。
No title 
いや〜、今作は少女ブライオニーが巧かったですねぇ〜
私も娘さんになったブライオニーは、ちょっとフックラしすぎで違和感ありました★
老年ブライオニーは、また違和感なかったな。

>少女期特有の張り詰めた危うさ、余裕のなさ、堅さ、のようなもの

ほんと、この辺が秀逸でしたね!自意識過剰なとことか。
自分も13歳の頃を思い出して恥ずかしくなっちゃう(^^:

長回しが永遠に続きそうな虚しさを感じさせる、というのも納得!
ほんと、あれが、ぱっぱっと画面が切り替わっていったら
あんなに絶望感は漂わなかったような気がする。

でもブライオニーの償い、あれだけで良いわけないですよね!!><
もし私がセシーリアなら、化けて出てやる〜!!
>わさぴょんさん 
そうでしょう? この映画はブライオニーですよねっ!
わさぴょんさんも、少女時代を思い出して、恥ずかしいんですか。ぐふふ…どんなことなんでしょ…。

長回しが、永遠に続く虚しさ。そんなことを書いていたんですね、じぶん。やっぱり、そのときに書き留めておくのは意味があるなー。
と改めて思いました。

取り返しのつかないことをしてしまった本人が、一番つらいとは思いますが、やられたほうは、化けて出たい気もしますよね〜。

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