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2023-06

「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」 - 2008.05.09 Fri

ひとりの石油採掘人の強烈な生き方を描く。
ダニエル・デイ=ルイスの演技のうまさと、ポール・ダノのうさんくさい存在感。



噴き上げる原油の炎の力強さ
(c) 2007 by PARAMOUNT VANTAGE, a Division of
PARAMOUNT PICTURES and MIRAMAX FILM CORP.
All Rights Reserved.

デイ=ルイスは、彼が演じているダニエル・プレインビューという役柄の人物そのものとしか思えなくなってくる。
しかし、そんな怪物級のデイ=ルイスに立派に対抗していたのが、ポール・ダノ。
どこか子どものような、ぺろんとしている顔立ちの表情の中に隠された、嫌悪感をもよおすような俗物性
聖職者づらの陰で、金と、カリスマ性をまとった支配力を求める神父を演じるとき、彼の顔立ちが、見る者に、どんな感情を呼び起こさせるか、ということを計算したのなら、見事なキャスティングといえる。

全編を通して、2人の確執は続く。神職の仮面をかぶった偽善と、それを嫌悪する者。

ポール・ダノ、どこかで見たぞと思っていたが、「リトル・ミス・サンシャイン」の、口をきかない息子じゃないですか! なんとまあ。
ダニエル・デイ=ルイスと1対1の演技場面も多いので、彼に負けじと頑張ったことが、ダノの「怪演」とも見える結果を生んだのかもしれない。
なにしろ、エンディング間際の、ボウリング・レーンのある部屋での2人の対決といったら、鬼気迫る迫力だ。
デイ=ルイスの憎しみの感情のほとばしり、それを受けるダノ。
そして、いくつかの意味にとれる最後のセリフ、締めくくりの鮮やかさは、この物語が考えうるベスト・エンディングのなかのひとつだろう。

2人の確執が、すごい
(c) 2007 by PARAMOUNT
VANTAGE, a Division of
PARAMOUNT PICTURES and
MIRAMAX FILM CORP.
All Rights Reserved.

それにもまして素晴らしいのは、音楽。
スタートから、不協和音のような音楽が緊張感を高める。
不安な胸騒ぎをかもしだすような音に彩られて、ドラマは格段にランクを上げた。
作曲はジョニー・グリーンウッド。ロックバンドのレディオヘッドのメンバーだという。今後も、絶対に要注目!
エンドロールなどでは、ブラームスのバイオリン協奏曲第3章も使っていたらしい。

カリフォルニアで油田を採掘していた、ということは、恥ずかしながら認識していないことだった。
個人が掘り当てれば、それは個人の財産になったわけか。
ダニエル・プレインビューは、金を掘り当て、資金を得る。彼はチャンスをつかんだ。こういうことが、アメリカはチャンスの国(だった)、と言われるゆえんだろうか。
プレインビューは資本家であり、労働者を雇い、油田採掘をする。資本家と労働者、分かりやすい資本主義の構図だ。

人を信用しない生き方は、きっと、それまでの彼の人生経験からも身についてきたことなのだろうが、愛の存在しない社会的成功は、やはり、むなしい

日本公開時についたタイトルは、原題のとおり。直訳すると「血があるだろう」。(?)
雑誌で、「血が流れるだろう」という意味だというふうな映画評を見た。血がある、というのは、流血がある、つまり、血が流れる、ということなのだろう。
もちろん、文字どおりの、流す「血」のほかに「血縁」もあるだろう。そして原油も「血」のようなものと見ていいのだろう。
ダニエル・プレインビューやイーライ・サンデー神父の性格も、その「血」の為せることだったともいえる。

プレインビューに共感を持つには、悪者的な部分が強烈すぎるのか、人間的な弱さが見えにくいのが少し惜しい気がする。
だが、原油の炎が地下から天に向かって噴き上げるパワーの強烈さに象徴されるような、演出と演技の力強さには、ぐいぐいと引き込まれる。
圧巻だった。

息子を仕事のダシに使う
(c) 2007 by PARAMOUNT VANTAGE, a Division of
PARAMOUNT PICTURES and MIRAMAX FILM CORP.
All Rights Reserved.

(4月29日)

THERE WILL BE BLOOD
2007年 アメリカ作品
監督 ポール・トーマス・アンダーソン
出演 ダニエル・デイ=ルイス、ポール・ダノ、ディロン・フレイジャー、ケヴィン・J・オコナー、キアラン・ハインズ

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評価☆☆☆☆(4点。満点は5点)

● COMMENT ●

素晴らしい映画でした。

デイ=ルイスの怪演に圧倒されました。ダノ君、胡散臭かったですよね!!!
同じ悪人でも、私はあの神父に嫌悪感を抱きました。
ほんと、見事なキャスティングですね。
人間の醜悪な部分をデフォルメすることによって、
逆説的に人間の愛の素晴らしさを描いているのかもしれませんね。

ボーさん☆
TBありがとうです~。
このレディオヘッドのジョニーの曲、おどろおどろしくてハマっていましたよね~。
さすが音楽にこだわるPTA。
ちょっとドラマ『LOST』の曲にも似てました。

悪魔のような男をダニエルならではの演技でモノにしてましたね、
ポールダノもすっごく良かったし、可哀想な息子との親子関係も悲しいけど良かったです☆

こんにちは。
コメント&TBありがとうございました。

こちらがアカデミーとってもいいのに・・・とも思いましたが まあ 主演男優賞とったからいいよね ってとこでしょうか。
こうやってボーさんのところ 一番上に貼ってある写真を見るだけで 映像よかったなぁと思い返します。

あのエンディング 観客の中には 「なにコレ???」って言ってる人もいました。でも ノー・カントリーよりはよかったと思うのですが・・・。

>マーちゃんさん、migさん、プリシラさん

マーちゃんさん(「ちゃんさん」だと重複した呼び方みたいなので、マーちゃん、でもいいですか?)、神父に嫌悪感…そうですよね、家族の食卓で父親と取っ組み合いもありましたし…エセ宗教家ってのは、鼻持ちならない典型ですよね。
この映画が、愛について何か言いたいのかどうかは、けっこう疑問ではありますが。つまり、ダニエル・プレインビューを否定的に見ているのかどうか。そうでもないような気もするのです。

migさん、映画の始めから音楽がよくて、エンドクレジットで担当者の名前はチェックしようと思って観てました。
それでジョニー・グリーンウッド? …知らなかったです。ロックには、うといので。
息子のことは書きませんでしたが、もちろん物語の大きな部分を占めていましたね。
あの子が素人だってのも、なんだか、よいです。

プリシラさん、私だったら、こちらに作品賞と監督賞もあげますね。
この写真みたいに油が勢いよく燃えたら、資源がなくなっちゃうんじゃないかと、いらない心配をしちゃったりして。
あのエンディングで、何これ、ですか? それこそ何ででしょうね。よく分かる終わり方だと思いますけど。
TBはリンクが重複しますので削除しました。

おっ、ボーさんは、評価高いですね!
私もこれはかなり興味深く最後まで見れましたね。
全編に流れる音楽が雰囲気を引っ張っていましたね。

>とらねこさん!

音楽とあいまって、緊張感もあり…。
「リトル・ミス・サンシャイン」の、あの子が、こんなに、うさんくさい神父をやるとは思いませんでした。
なかなか、できない映画と思います。

こんにちは!

音楽は私にとっては気持ち悪いものでしかなかったんですが、
確かに効果的でしたね!
作品の不穏な雰囲気と合っていました。
その作曲者が、ジョニー・グリーンウッドだとはびっくりです。
こんな変わった曲を作って映画に貢献していたんですね~

役者も映像も音楽も強烈なパワーを持っていて、
胃もたれするような作品でした。(^^ゞ

>YANさん

こんばんは!
気持ち悪かったですか。私は、ああいうの好きっぽいです。
音楽がジョニー・グリーンウッドと聞いても、ピンとはこないんですけど、いい仕事してたと思います。

胃もたれ、わかる表現ですね!
でも、めったにないような強力な映画で存在感たっぷりでしたよね。

名役者に引っ張られてポール・ダノの格もUP

>どこか子どものような、ぺろんとしている顔立ちの表情の中に隠された、嫌悪感をもよおすような俗物性。

ホントそうですよね~!
この配役は??と一瞬思ったんですが
なんのなんの、ダノ君も負けて無かったですね~!

不安な曲調でひっぱり、ラストは晴れやか曲でシメる。
プレインビューもこれでやっとスッキリしたって事なのかな~☆

>わさぴょんさん

負けてなかっダノ~!
…などとダジャレを言うひまもないハードなドラマでしたね!

すごい密度で、観たな~っ!という満足感があります。
おやっさん、スッキリした表情にも思えましたね。


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