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2019-11

「白の闇」 ジョゼ・サラマーゴ - 2008.07.09 Wed

傑作小説だと思う。
私の読書歴は、たいしたことはないから、傑作の設定レベルが低いかもしれないが…。



突然、人々の目が見えなくなる。ふつう、目をつぶってみると、光の加減にもよるが、暗めの闇を感じる。だが、この小説では、白い闇になる。

見えなくなった人たちが、まとめて一つの施設に入れられる。施設といっても、使われていない病院。政府の方針によって、そこに押し込められたのだ。
ある部屋のメンバーの中に、本当は目が見えるのに、見えないふりをして夫についてきた女性が、ひとりいた。彼女が見えることは、夫しか知らず、部屋の他のメンバーにも隠し通している。

いまや、見えるということは、強大な力だ。
さまざまな場面で、彼女は、それとなく皆をリードしていく。
やがて、食料の配給を、力ずくで奪おうとするグループが現われて…。
カバー
後書きにあるが、作者は、もしも、すべての人の目が見えなくなったら、どうだろう、というアイデアを思いつき、次には、なんてことだ、目が開いていたって、私たちは見えていないも同然じゃないか! と、がく然としたという。

この本を読んでも分かるが、目が見えなくなると、他人がその弱みにつけこんだり、見えなくなった本人が自暴自棄になったり、どうせ誰も見ていないんだからと、つつしみを忘れたりと、醜い人間の本性が出てくる。
収容所の管理を担当する軍隊も、感染するのではないかと恐れて、ろくに世話などしない。外に出てこようとする人におびえて、銃を撃とうとするほどだ。

食料を奪おうとするグループは、つまり独裁者、ファシストなどに置き換えて考えてもいい。簡単に、こういう者たちは出現するのだ。今の世界でも同じ。
見えなくなって出現する醜い世界だが、見えている世界でも、さまざまに同様の醜いことは起きている。たとえば戦争による一連の悲劇。
作者が、がく然とした理由は、そういうことでもあろう。
目が見えても、世の中は良くならないじゃないか。

すべての人の目が見えなくなる現象は、いまのところ現実にはない。
つまり、この物語全体が寓話(教訓や風刺を含んだ作り話、みたいなもの)なのだ。寓話ゆえに、登場人物に名前はない。
人々の目が見えない世界があったら、きっと、こうなるだろうと、人間の本質の部分をさらけ出していく語り口は素晴らしい。
人それぞれに考え方が違い、生き方が違う。その描写も小説として面白い点だ。
見えない不安のなかで、生きていこうとする彼ら。彼らの先頭に立ち奮闘する、見える女。

読んでよかった、と強く思った本は、めったにないが、これはまさしく読んでよかったと、心から思えた小説だった。

文体は特徴がある。
セリフに「 」を使っていなくて、その部分で改行もしない。
最初は、おや?と思った。たまに、これは誰が言っているんだ?と考えたところもあるけれど、慣れてみると、それほど困ることもない。

作者は1998年にノーベル文学賞を受けている。「白の闇」は1995年の作品だが、これだけでもノーベル賞の価値はあるのではないかと私は思う。
続編も書いているようだが、日本語訳はされていない。ぜひ、早く出してほしい。

外国の作家に、たまにある、表現の分かりづらい、意味がとりにくい、長めの文章。これは多少あった。
説明の仕方や、比喩などの、考え方の回路が、日本人とは違うのかと思ってしまうのだが。

物語の中に作家が出てくるが、これは作者自身のように思える。彼の目が見えなくなったら、どうなのか、どう考えるのか、ということを、登場人物にして書いてみたのではないだろうか。

この小説を原作にした映画「ブラインドネス」が11月に公開される。
映画については、次の記事で書いてみるつもり。

(6月16日読了)

追記:で、書いたのが、こちら

● COMMENT ●

読んでみたい!

うっわ~コレ面白そうですね~!!
探してみます!

「」は無いのか・・・大丈夫かな・・・
こないだ川上未映子の「わたくし率イン歯ー、または世界」という小説を読んだのですが
句読点が無い独特の文章に、なんかちょっと拒否反応が・・・

>わさぴょんさん

ありがとうございます! 興味をもってもらえたら嬉しいです。
映画公開に合わせて、改装版が出ました。もし図書館で借りるとすると、映画公開があるので人気があって多少「順番待ち」になるかも。もちろん買うなら問題ないですけど!
句読点は、しっかりあるので、ご心配なくっ!

文体が独特なのか~

これ、翻訳の問題もあるかもしれないけど、「文体」に癖がある作品って確かに好みが分かれるかもですね。あとボーさんが指摘してる改行の件、私は人一倍気になる方で、それで未だジョン・アーヴィングが肌に合わなかったりします。この作品はどうかなぁ・・・。
でも、風刺を含む寓話ってキライじゃないんですよ。
ボーさんのあらすじ&感想からカズオ・イシグロの『わたしを離さないで』にを近い匂いを感じたんだけど、あれは面白くて一気に読めたし(イシグロ氏の文体もすごく癖があったけど)、読まず嫌いしないでとりあえずは一度書店で手に取ってみよっかな~と思います。(要するに立ち読みじゃ)

>小夏さん

いや、最初だけ引っ掛かりましたけど、あんまり気になりませんよ。
ジョン・アーヴィングは読んだことないので分かりません…。
最近、新装版が出て、映画も来るので、東京では書店で平積みのところもあります。Amazonなどで買っちゃうってのはいかが? 責任は負いませんがっ!

図書館でかりてみました。

図書館で借りて読んでみました。

ひとりの男の目が見えなくなった。。。ってところから始まって、ワーっと広がっていく様子が迫力あって、長い小説でしたけれども最後まで飽きずに読めました。

目が見えなくなってかえってはっきり現れて来る心の闇がこわかったです。
医者の妻、作家さん(わたしも筆者本人に近そうって思いました)、サングラスの娘、みんないかにも「いるいる」って感じの人たちで親しみやすかったし、見えなくなってからの行動の変化も個性があって楽しかったです。

よい本を紹介していただきました。ありがとうございました。

>とーふさん

おおっ!
フィクションはあまり読まないのかなと思っていましたので、ちょっと意外ではありましたが、ありがとうございます。
飽きずに読めたなら、よかったです。
目が闇になれば、心も闇になりがちですよね。
「闇=病み」だったりして。
人間の怖さや、逆に、良さも見せてくれたように思います。

読みました!

読みましたよぅ!
すっごく面白かったです!傑作です!
私も記事書いたけど、やはりこうしてボーさんとこに改めてきてみると
私のレビュなんてまだまだだなぁ~とorz
いやほんと、この本を紹介してくれてありがとうございます!

>わさぴょんさん!

ありがとうございます!
読んでいただけるとは、このうえない喜びでございます。
私の文など、たいしたことないですよー。
サラマーゴに比べたら…(当たり前や!)
多くの人に読んでほしいですね。映画公開後に読む人もいそうですけど。

No title

ボーさん
TBコメありがとうです★
ノーベル賞をとってるし映画観たら気になってたんですけどボーさんもお勧めですかぁ。

ボーさんはキングの「ミスト」はOK派でしたっけ?(映画版)
あちらはものすごく
極限状態に集団で陥った時の人間対人間のいさかいとか様子がリアルでした、
こちらはちょっと弱いなぁって思ったりもしたけど
原作読まれた上でのボーさんの感想いまからすごく楽しみです♪

No title

あ、抜けましたけど
わたしも原作の方、読んでみますね☆

>migさん

これは今年いちばんの読書収穫でしたよ。(読んでる数少ないですけど)
「ミスト」は初めはイヤでしたが、肯定します。
原作が好きすぎると映画が劣って見えそうですが…私も楽しみです。
まあ、気が向かれたら読んでみてください!

こちらにもお邪魔します♪
映画の方にTBさせて頂きましたが、実は私、困っちゃうくらいの辛口感想を書いてしまって、、、ボーさんが原作をお読みなので寄らせて頂きました。
原作は傑作小説のようですね~
私は映画が超~苦手だったのですが、コチラは面白そう。
原作を知っていると、それが映像になった時に違和感を感じることってありますよね~

>由香さん

いらっしゃいませ! ありがとうございます。
映画のほう、TB返しておきましたが、許可後の反映でしたっけ?
感想は拝読しました。思ったとおり書くのは、いいと思いますよ~。もっともな点もありますし。
私も映画のほうは、それほど…。原作を知っているせいかなとも思っているのですが。
映画を観たあと原作を読んだら、多少は違った感想は出るかもしれないですね。「かも」ですけど。

コメント&TBありがとうございます♪
僕もいつかボーさんの過去の古い記事にコメント&TBできることを夢見ております(^^。
この小説のタイトル「白い闇」じゃなく「白の闇」ってところもポイント高いですね♪

>kiyotayokiさん

こんばんは!
え、夢見ないでも、できるのではないですか。(笑)

邦題は、いいですよね。「い」と「の」の違いだけでも、どこか変わる。さすが日本語!(でしょうか?)


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