2008/07/09(Wed) 23:19
傑作小説だと思う。
私の読書歴は、たいしたことはないから、傑作の設定レベルが低いかもしれないが…。
突然、人々の目が見えなくなる。ふつう、目をつぶってみると、光の加減にもよるが、暗めの闇を感じる。だが、この小説では、白い闇になる。
見えなくなった人たちが、まとめて一つの施設に入れられる。施設といっても、使われていない病院。政府の方針によって、そこに押し込められたのだ。
ある部屋のメンバーの中に、本当は目が見えるのに、見えないふりをして夫についてきた女性が、ひとりいた。彼女が見えることは、夫しか知らず、部屋の他のメンバーにも隠し通している。
いまや、見えるということは、強大な力だ。
さまざまな場面で、彼女は、それとなく皆をリードしていく。
やがて、食料の配給を、力ずくで奪おうとするグループが現われて…。

後書きにあるが、作者は、もしも、すべての人の目が見えなくなったら、どうだろう、というアイデアを思いつき、次には、なんてことだ、目が開いていたって、私たちは見えていないも同然じゃないか! と、がく然としたという。
この本を読んでも分かるが、目が見えなくなると、他人がその弱みにつけこんだり、見えなくなった本人が自暴自棄になったり、どうせ誰も見ていないんだからと、つつしみを忘れたりと、醜い人間の本性が出てくる。
収容所の管理を担当する軍隊も、感染するのではないかと恐れて、ろくに世話などしない。外に出てこようとする人におびえて、銃を撃とうとするほどだ。
食料を奪おうとするグループは、つまり独裁者、ファシストなどに置き換えて考えてもいい。簡単に、こういう者たちは出現するのだ。今の世界でも同じ。
見えなくなって出現する醜い世界だが、見えている世界でも、さまざまに同様の醜いことは起きている。たとえば戦争による一連の悲劇。
作者が、がく然とした理由は、そういうことでもあろう。
目が見えても、世の中は良くならないじゃないか。
すべての人の目が見えなくなる現象は、いまのところ現実にはない。
つまり、この物語全体が寓話(教訓や風刺を含んだ作り話、みたいなもの)なのだ。寓話ゆえに、登場人物に名前はない。
人々の目が見えない世界があったら、きっと、こうなるだろうと、人間の本質の部分をさらけ出していく語り口は素晴らしい。
人それぞれに考え方が違い、生き方が違う。その描写も小説として面白い点だ。
見えない不安のなかで、生きていこうとする彼ら。彼らの先頭に立ち奮闘する、見える女。
読んでよかった、と強く思った本は、めったにないが、これはまさしく読んでよかったと、心から思えた小説だった。
文体は特徴がある。
セリフに「 」を使っていなくて、その部分で改行もしない。
最初は、おや?と思った。たまに、これは誰が言っているんだ?と考えたところもあるけれど、慣れてみると、それほど困ることもない。
作者は1998年にノーベル文学賞を受けている。「白の闇」は1995年の作品だが、これだけでもノーベル賞の価値はあるのではないかと私は思う。
続編も書いているようだが、日本語訳はされていない。ぜひ、早く出してほしい。
外国の作家に、たまにある、表現の分かりづらい、意味がとりにくい、長めの文章。これは多少あった。
説明の仕方や、比喩などの、考え方の回路が、日本人とは違うのかと思ってしまうのだが。
物語の中に作家が出てくるが、これは作者自身のように思える。彼の目が見えなくなったら、どうなのか、どう考えるのか、ということを、登場人物にして書いてみたのではないだろうか。
この小説を原作にした映画「ブラインドネス」が11月に公開される。
映画については、次の記事で書いてみるつもり。
(6月16日読了)
追記:で、書いたのが、こちら。
トラックバックURL
http://bojingles.blog3.fc2.com/tb.php/1253-5de15911
白の闇 /ジョゼ・サラマーゴ/著 雨沢泰/訳 [本] ノーベル文学賞を受賞(19
今年のトロント映画祭と、カンヌ映画祭オープニングを飾った
『シティ・オブ・ゴッド』のフェルナンド・メイレレス監督の最新作!
『ナイロビの蜂』はあまり好きじゃないけど『シティ・オブ・ゴッド』が良かったしガエルくんが出てるので楽しみにしてた作品。
いよいよ来...
「ブラインドネス」★★★
ジュリアン・ムーア、伊勢谷友介、木村木村佳乃
ガエル・ガルシア・ベルナル 主演
フェルナンド・メイレレス 監督、2008年、121分
10月の東京国際映画祭で見た映画、
主役がズラリと並んだ舞台挨拶で
華やかに上映された。
...
☆私は、パッと見で似た作品イメージであるシャマランの『ハプニング』にも、なかなかの高評価を与えた者であるが、
いかんせん、所詮は、この『ブラインドネス』の前座でしかなかったようだ。
『ブラインドネス』・・・、物語の中盤、この下腹部に鬱積する暗澹たる...
今回は、ジュリアン・ムーア主演、原因不明の病原菌で人類が次々と失明していく恐怖を描いた心理サスペンス「Blindness ブラインドネス」
[parts:eNozsDJkhAMmJhMjUyZjU2NGJgszSyPTNEuLxCqfCJOsrLz0gkgmGDA2xS4P1czEhKQSAPRtEC4=]
ランキングに参加してます。
...
『全世界、失明。』
コチラの「ブラインドネス」は、驚異的な伝染力を持つ奇病<ブラインドネス>により、人類が次々と失明してゆき、不安と恐怖がひき起こすパニックの渦中に、ただ一人”見えている”女が紛れこんでいた様を描く、11/22公開のPG-12指定の心理パニッ...
ブラインドネス
カナダ&ブラジル&本日
サスペンス&SF&ドラマ
監督:フェルナンド・メイレレス
出演:ジュリアン・ムーア
マーク・ラファロ
ガエル・ガルシア・ベルナル
木村佳乃
【物語】
ある日、車を運転していた日本...
年末年始に読んで面白かった本をご紹介いたしましょう。
『白の闇』。
昨年末に観た映画『ブラインドネス』の原作です。
作者は、ポルトガルのノーベル賞作家ジョゼ・サラマーゴ。
ノーベル文学賞を受賞した作品と聞いただけで、「うわっ、難解そう」と身構えてし...
..
探してみます!
「」は無いのか・・・大丈夫かな・・・
こないだ川上未映子の「わたくし率イン歯ー、または世界」という小説を読んだのですが
句読点が無い独特の文章に、なんかちょっと拒否反応が・・・