「どん底」 - 2008.10.04 Sat
その下の貧乏長屋に住んでいる人々の、どん底の生活。

ゴーリキーの原作を、小国英雄と黒澤明が脚色した。
カメラは、長屋と大家の家、その外側の狭い範囲から外へは出ない。舞台劇のような密度。
住人は、遊び人(三井弘次)、役者くずれ(藤原釜足)、泥棒(三船敏郎)、鋳掛屋(東野英治郎)とその女房(三好栄子)、夜鷹(根岸明美)、御家人くずれ(千秋実)…。
泥棒と大家の女房(山田五十鈴)は関係があるが、泥棒は女房の妹(香川京子)のほうに惚れている。
旅の途中のお遍路さん(左卜全)が、しばらく長屋に泊まることになり…。
2時間の間、飽きさせずに、さまざまな人間模様を見せるのは、さすが黒澤というべきか。
原作とは、だいぶ似たような脚本らしいから、原作の力も大きいだろう。
左卜全が、絶望感をもつ住人たちを励ます。どん底の住人たちに、人間らしい考え方や生き方、希望の芽をふりまく役柄か。
しかし、人殺しが起き、裁きの場に証言に立たなければならない心配が出てきたとたん、彼がとった行動は…。
いったい、このお遍路さんは何だったのか。解釈しようとすれば一筋縄では行かず、興味深い。
これは、見た者の考え方次第ではなかろうか。
本番と同じ衣装で、役者たちは何日もリハーサルしたという。
「役に、なりきる」ことを、監督は望んだのだろう。
監督は落語家を呼んで、役者たちに、長屋ものを題材にした落語まで聞かせたという。
そのかいもあって、もう、全員の演技に、隙がないというのか、見事に貧乏長屋の住人らしいのだ。
山田五十鈴の悪女ぶりは堂に入って凄みがあるし、三井弘次の、いまの生活に腹をくくって騒がないような遊び人もいい。酒に体をやられながら再起の夢を捨てず、哀れを誘う役者くずれの藤原釜足もよかった。
お遍路さんのセリフ。「いいかい、おめえさん、どんな人間でも大切にしてやんなきゃいけないよ。だってさ、わしらにゃそれが、どんな人間なのか、何をしに生まれてきたのか、何をしでかすのか、見当もつかねえんだからねえ。ひょっとしたら、その人間はわしらのため、世の中のために、どえれえ、いいことをしに生まれてきたのかもしれないではないか」
社会の底辺のような生活を描いて見せていき、主張がどこにあるのかはわかりづらいが、つらい生活のなかであっても負けずに生きていこう、ということだと私は解釈した。
(9月28日)
1957年作品
監督 黒澤明
出演 三船敏郎、山田五十鈴、香川京子、中村雁治郎、左卜全、三井弘次、藤原釜足、根岸明美、千秋実、東野英治郎、上田吉二郎、三好栄子、清川虹子、田中春男、渡辺篤、藤田山
参考:どん底@映画生活
評価☆☆☆★(3.5点。満点は5点)
● COMMENT ●
No title
>YANさん
いえ、録画したものをガンガン見るパターンだと、私は、こうなるのです。
最近はビデオの不調もあり、録画をあまりしていなかったですが、DVDレコーダーになったので。
昔の映画だと、コメントはしにくいと思いますけど、適当に茶々入れてくださいね。
TB&コメント有難うございました。
大元がゴーリキーの舞台劇ですから当然ですが、演技と台詞の面白さのみで見せるのは黒澤作品では珍しい。
後年の「どですかでん」と一対になる作品でしょう。
>お遍路さん
ロシア文学を専攻した僕の解釈では、あれは無用に希望を与える当時(20世紀初め)の思想家へのゴーリキーの皮肉ではなかったか、と思います。なかなか人生を達観した良いことを仰っていますが。
彼はギャンブラー(遊び人)の現実的な対応こそが下層階級の希望であるとしている、と思われます。
映画版が全く同じであるという保証はありません。^^;
>オカピーさん
「どですかでん」は覚えていないので、それはまた楽しみです。
お遍路さん、なるほど。この先ネタばれですが、
私も最後は、あのキャラクターが、すたこら逃げてしまったので、うさんくさく思っていました。
左さんは、どういう立場で演じるか、よく分からなかった、という話もあるようです。
お遍路さん
当方では西国33箇所や四国88箇所の遍路詣での旅があり、ちょっぴりだけ私も体験していますが、関東にもあるのですね。
老いてきて、多少は信仰心に目覚めたかな?。
>アスカパパさん
関東は、私の母は行っています。私も埼玉や日光、神奈川の寺などは、お供しましたよ。
No title
観ていて体が痒くなってきそうな そんな
衣装やセットだと思いました。
山田五十鈴 貫禄がありましたね。
長谷川一夫とコンビを組んでいたころの
映画と全然違いました。
>Nanakonaさん
山田五十鈴さんは、すごかった。ああいう女優になれたら、いいでしょうねえ。
>fjk78deadさん
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最近、渋い作品が並んでますが、
観直しキャンペーンですか?
これもかなり古いので全く知らないし、
(単に私が無知なんですが)
役者の名前も4~5人分からない人がいます。
黒澤監督の映画にかける熱い思いはやっぱりすごいようで、
役者の役作りでも、手間や時間をかけたんですね~