「蜘蛛巣城」 - 2009.03.06 Fri
(といっても、黒澤映画はそれほど多くは見ていないが。)
日本の伝統芸能美である「能」を取り入れて作られた、と本編開始前に紹介された。
「隠し砦の三悪人」(1958年)では、それぞれ武将と農民だった三船敏郎と千秋実が、ここではどちらも武将役のツーショット。考えてみれば面白いものだ。映画というのは、同じ役者でも作品が違えば、まったく違う役ということを、見る側はちゃんと前提条件として受け入れているのだから。
黒澤作品には、何本も出演している俳優が多いようで、本作には志村喬なども出ている。
シェイクスピアの「マクベス」をもとにした物語は、霧の立ち込めた森の中の物の怪(もののけ)の妖しさや、能面のような顔をした妻の恐ろしい情念などによって、異様な雰囲気が漂う。
精神的に敏感な人が、この映画を途中で見たくなくなった、という例を知っている。
日本映画におけるホラーの始まり、というような意見もあるのは理解できる。日本風な怪談は、もっと昔からあったわけだが、この作品は怪談といってしまうには、ちょっと違うのであって、その風格、存在感は大きすぎる。
武将・鷲津武時(三船)に主君殺しをそそのかす妻・浅茅(山田五十鈴)が、ふすまの向こうの暗がりへ消えていき、再び暗がりの中から姿を現わすところは、この妻こそ物の怪ではないか!?と思わせる、すごい場面だった。
山田五十鈴さんの演技は、セリフ、動きに、聞き応え、見応えあり。手を洗う場面などは最高の見せ場で、圧巻だ。
余談だが、本作に「森が動く」というキーワードがあって、私が好きだった漫画の「ワイルド7」でも、その言葉があったのを思い出した。この映画(または「マクベス」)にヒントを得ていたのかも。
妖しい雰囲気いっぱいの面白い映画だが、難点は、声が聞き取りづらい部分があること。この映画について書かれた文章を読むと、みなさん、このことをたいてい書いている。きっと、書かずにいられないくらい、もどかしいのだ。字幕をつけてほしいと真剣に思った。

鷲津の周りに、何十本もの矢が突き刺さる場面は衝撃的。
右のDVDジャケットにもあるが、映像では、三船さんの驚きや恐怖が本当に出ているよう。
下手したら当たるよ! …って、マジ当たってるのもあるのだけど、あれはどうなっているのか。よろいを強力にして、中まで突き通らないようにしていたりするのだろうか。おそろしい…。
それに、もしも、顔に当たったら、どうするのか。
しかも最後は首を…。いったい、どうやって撮ったのだろう! おそろしい…。
(3月1日)
1957年作品
監督 黒澤明
出演 三船敏郎、山田五十鈴、浪花千栄子、千秋実、志村喬、佐々木孝丸
参考:蜘蛛巣城@映画生活
評価☆☆☆☆(4点。満点は5点)
● COMMENT ●
こんにちは
恐いのは人間の心
この映画は、その後の70年代以降の黒澤時代劇大作の予兆といえます。
騎馬隊が荒野を駆け巡り、数千人の甲冑隊が陣形を作りながら走り抜ける「影武者」の、
能・歌舞伎の様式美を、シェイクスピアのドラマツルギーの元、
西洋の手法である映像の中で読み解く「乱」の、
アイデアのオリジナルはこの時始まっていて、この「蜘蛛の巣城」と三作を
トリロジーとして観て見ると、黒澤の表現したかった世界が良く判るかも。
美しい顔の悪魔の女が主(あるじ)を地獄に導いたり(山田五十鈴と「影武者」の原田美枝子)、
という同じ表現のパターンもありますしね。
(しかし、黒澤の創造する強い女は、「赤ひげ」の連続殺人女など、ホントに恐ろしい!)
「七人の侍」「生きる」「赤ひげ」「用心棒」などの、人間の良心のサイドの作品ではなく、
これら三部作は、正にダーク・サイドを描く地獄巡りともいえるシリーズで、良心サイドとは全く一線を隔しておると思いますね。
しかし、なんといっても、あの暗闇の森の中の妖怪婆あの恐ろしいことと言ったらありません。
あれが、オロナイン軟膏よう効きますで、の浪花千恵子さんとはとても信じられません。
日本映画が創造したモンスターの、最も恐ろしいキャラクターかも。
セリフが聞きづらいといえば、私の観てるのは中国製ですが、日本語の字幕付というスグレもので、これは重宝してますけど。
ミ・フ・ネ!
途中で睡魔に襲われ・・・
最後まで観なかった苦い記憶が★
今観たら楽しめるかも^^;
字幕つきのがあるんですか?!私もそれなら観てみたいな~
こんにちは
ラストシーンもさることながら、山田五十鈴、そして
浪花千栄子、千秋実も
怖いです。
でも何度も見てしまいたくなる
不思議な映画ですね。
>ヨヨさん
あ、新しいDVDは字幕がついていますか!
きっと誰もが聞きづらいと感じているのでしょうね…。
去年、山田五十鈴さんが若いころの映画を2本ばかり見ましたが、インパクトありました。
いい女優さんですね。
監督もすごいですが、それに応えられる、というのも。
>lalakiさん
おお! 「影武者」「乱」と関連させて3部作って、はじめて聞いた考え方です!
どちらも見ているんですが、幼かったので、いまいち理解してません…。黒澤さんは70年代よりも、昔の作品のほうが面白いような気もします。
ダークサイド3部作って、なんだか、スター・ウォーズ新3部作を思い出しますね?(笑)
浪花千恵子さんって、オロナイン軟膏よう効きますで、の方だったんですか! 知らなかったです…。
次回見るならば、字幕で見たいものです。
>わさぴょんさん
ホラー好き傾向があれば、興味深く見られるのではないかなあと思いますが…。
きっと当時は、物の怪の術にかかって、眠くなってたんですね。(真顔で発言)(笑)
>ブラボーさん
とくに山田五十鈴さん、浪花千栄子さんが怖いですね。
しばらく経ったら、また見たくなるかもしれません。そう思わせる映画こそ、すばらしいのかもですね。
トラコメ有難うございました。
「マクベス」は色々と読んだ(見た)シェークスピアの中でも一番のお気に入りです。
>森が動く
「プレデター」でも「森が云々」という台詞があったようで、これも影響を受けたのではないかと思っています。
>しかも最後は首を…。
これは首の後方部分から前へ飛び出して首にはまる仕掛けを仕込んだのだそうです。
その仕掛けは両端に矢を固定した半円形のものになっているわけです。
人間の錯覚で、余りに速いとまるで矢が飛んできて刺さるように見えるのでしょう。
言われてみると「なあんだ」ということになりますが、他の人はやっていないし、この作品以降でも殆ど見られないですよね。
通常はカメラを一旦止めて・・・となるので、動きがぎくしゃくしてしまう。
現在ならVFXで終わらせて全くつまらない。
コンピューター技術は映画をつまらなくしたと僕は思っているんです。(笑)
では、また。
>オカピーさん
「プレデター」は見ましたが、記憶があまりなく…(笑)
首の矢のトリック、リクエストにおこたえいただき、ありがとうございます。
ひとつ確認しますと、最初から首に仕掛けたわけではなくて、仕掛けを後方から前に飛ばして、首に、はまるようにしたわけですね?
なんにしても、目の錯覚を利用している頭のいいやり方ですね!
TB&コメントありがとうございます。
そして女優陣の、山田五十鈴と浪花千榮子の両御所。ほんとうに鬼気が迫る想いでしたね。
>アスカパパさん
本作で奥方を演じたのが山田五十鈴さんということを忘れていましたので、今回また、すごい女優だと再認識しました。
浪花さんも、お見事でしたよね!(彼女の他の映画をあまり知らないので、それほど語れないのですが。)
トラックバック
http://bojingles.blog3.fc2.com/tb.php/1468-2d7b50e5
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
私はボーさんの記事にもあるコレクションのDVDでの鑑賞でしたが、これには字幕がついていて、観やすかったです。
奥方の、酒を取りにいく非常にゆっくりとした静かな間の中の後ろ姿と、甲高い衣擦れの音の場面は、今観ても恐怖感がすごいですね!