「レスラー」 - 2009.06.26 Fri
演じるミッキー・ロークの人生に重なるような役柄だったのが大成功。

ランディ“ザ・ラム”ロビンソン(ミッキー・ローク)の哀愁ただよう背中。試合では、ロープ最上段から飛ぶような激しいファイトも見せてくれる。
(c) Niko Tavernese for all Wrestler photos
「アクロス・ザ・ユニバース」、「ダイアナの選択」のエヴァン・レイチェル・ウッドが出ているから観た映画だったが、もちろん彼女もよかったけれど、ミッキー・ロークとマリサ・トメイも素晴らしかった。
ロークはプロレスラーの役で、自らの体で試合のシーンも演じる。その意欲、努力は、たいしたもの。
ロークといえば、なぜかプロボクシングをやりはじめ、1992年に日本でも試合をやった。勝つには勝ったが、力なく、フニャーッとしたパンチが「猫パンチ」と言われ、失笑を買う。
ボクシングのときに少しはトレーニングしただろうから、その経験が今回のプロレスの練習にも生きたのかもしれない。体つきは、そのままプロレスラーといってもいいくらいで、その面からも適役だった。
映画スターとしての挫折、復活といったドラマを実生活で演じてきたローク。
ダーレン・アロノフスキー監督(「レクイエム・フォー・ドリーム」は強烈だった)は、製作スタジオの推薦するニコラス・ケイジの主演に反対し、予算を減らされてもミッキー・ロークにこだわったといわれている。彼がロークの主演にこだわったのは、主役のプロレスラーが、まさにロークとダブる人物だったからであり、映画が観客に受ける可能性を分かっていたからに違いない。
実際、これ以上、ぴったりな主演俳優がいるだろうか。ロークをイメージして脚本を書いたのではないかとさえ思えてしまう。
ロークも、これはチャンスと思ったのか、体を張って頑張っている。
ロークは友人のブルース・スプリングスティーンに手紙を書いて主題歌を依頼、スプリングスティーンは映画の脚本を読み「ザ・レスラー」を書き下ろし、歌った。監督にすれば、棚からぼた餅の、うれしい話だっただろう。
この映画では、プロレスの裏側が分かって面白い。試合前の控え室で、対戦選手同士が打ち合わせをするのだ。どういうふうに試合を進めていくか、フィニッシュはどうするか。同じ日に行われる別の試合と似たような展開を避けるように考えたりもする。
やはりプロレスはショーといわれるだけあるなあと変に納得。
これが相撲だったら、八百長と言われる。(笑)
もちろん、打ち合わせなしの真剣勝負もあるかもしれないし、そのほうが多いかもしれない。私は知りません。
盛りを過ぎた選手の寂しさや孤独を、ひしひしと見せてくれる。
試合が終わって帰ってきたあとの孤独な暮らし、サイン会の閑散とした風景…。昔の栄光の遺産は、まだ、かすかに残っているが…。

キャシディ(マリサ・トメイ)は、もはや若くはないストリッパー。写真としては、この程度しかなかったが、トップレスで見事に踊ります。
(c) Niko Tavernese for all Wrestler photos
マリサ・トメイがストリッパー役。「いとこのビニー」(1992年)でアカデミー助演女優賞をとっている女優さん。
私は彼女の映画はあまり見ていないはずで、見た映画でも、彼女の記憶が、あまりない。
しかし、今回の役は印象深い。
ローク演じるランディが唯一、心を許す相手。もう若くはないストリッパー。
トップレス姿を惜しげもなくさらして踊る彼女、(エロいというのを通り越して)きれいで感動的です。
年齢をいうと失礼だが、撮影当時43歳くらいだったのに、とてもそうは見えない体。(ある記事で読んだが、グッドスタイルの秘密はフラフープだとか。)
人生をにじませるのは、演技もあるだろうけれど、それまで生きてきた俳優の人間味そのもののほうが大きいのかなと、ロークやトメイ嬢を見ると、特にそう感じる。
エヴァン・レイチェル・ウッドは、ロークの娘の役。音信不通だった父親が訪ねてきて動揺するが、父の心からの言葉を聞くと、態度をやわらげる。
父娘の心が通い合う場面には、じーんとくる。
しかし、この父親、ダメな親父の典型のような人。ダメな人というのは、どうしてもダメなふうになってしまうことが多いみたいで。
自分でダメにしているのではないかと思うくらい、もったいないことをしてしまうんですね。
さて、ローク演じるランディは、娘との、修復が始まった関係を維持できるのか。
生きるのに不器用な男。なんだか身につまされたりして。
自分のしてきたこと、そのツケはすべて責任をもって自分で支払う覚悟で生きている。今の状態を受け入れ、誰を憎むでもなく、淡々と生きているような様子は、どこか、すがすがしくもある。
そして、葛藤もあるが、やはり、自分の生きたい道、好きな道を行くことを選ぶ。
でも…他の「生きられる道」を、つかんでほしかった気もするなあ。
ラストは観客の想像にまかせている形だが、私だったら、すべてを、いいほうにとりたい。とってみたい。
決して、そうはならないだろうと感じてはいても。
せめて、私の頭の中だけでも、大甘に終わらせてあげたい。

ステファニー(エヴァン・レイチェル・ウッド)。親の愛を得られなかった子は、心に傷を負うものなのだ。
(c) Niko Tavernese for all Wrestler photos
ついでに書き留めておくと、アカデミー賞授賞式で、「スラムドッグ$ミリオネア」のフリーダ・ピント嬢がミッキー・ロークに言われたそうだ。
ここに来るには、まだ若すぎる、帰って、おねんねしてなよ、と。
本当だとしたら、自分と違って、それほどの苦労なくして、授賞式に来ることができたピント嬢に、皮肉のひとつも言ってみたかったのか。それともジョークなのかもしれないが。
まあ、そういうことは、映画の出来とは、まったく関係ないけどね。
(6月21日 シネ・リーブル池袋)
THE WRESTLER
2008年 アメリカ作品
監督 ダーレン・アロノフスキー
出演 ミッキー・ローク、マリサ・トメイ、エヴァン・レイチェル・ウッド
参考:レスラー@映画生活

評価☆☆☆☆(4点。満点は5点)
● COMMENT ●
これこそまさに!アメリカン・ハードボイルド!
おもしろそうです!
映画、観てみたくなりました。
よーし、私もフラフープ頑張る~!
うん、でも、ああいう事ってあるんです(´д`)
正に「あっ?!えっ!?しまったーーーーー!!!」なんです(爆)
頼むからあともう一回だけチャンスをください・・・(><)
最後の「へっ」とあきらめたような笑顔が切な過ぎ。
でも彼女はきっと客席におりてきて祈るように観てたんだと思う・・・
もし私だったら、気になって絶対帰れないよ~(;;)
>lalakiさん
いわれてみれば、たしかにハードボイルドですよね。ロークもトメイ嬢も!
ちょい、くたびれ気味だけど、大人な?
ピント嬢への言葉は、言った状況は分かりませんが、私は、そんな格好いい意味または格好つけた意味で言ったとは考えてなかったんですよ。
いい意味に思われちゃったなら、そのままにしておこう…。(笑)
>とーふさん
プロレスのシーンはリアルさもあって、流血(作りものでしょうが)もありますが、だいじょうぶでしょうか。
けっこう地味めですよ。
>わさぴょんさん
あ、しまった! ていうの、運命なんですかねえ。注意していても避けられないとすると、きびしすぎますね。
あ、客席にいた、というのは考えていませんでした。ありえますよね!
そして、ハッピーエンドに…なーんて!
映画の娼婦役とかストリッパー役とかって、人生がにじんでいて、好きなんですよね、私は。
うんうん、本当にそう思います。2人ともいい味わいがあって、しみじみ泣けました。
娘のステファニーは、私もビアンだと思いました...。
こんばんは!
これは観るつもりで皆さんのレビューも目を瞑ってきたのに、
思わず入り込んで大分読んじゃったじゃないですか~(^^;
しかし、ブルース・スプリングスティーン、懐かしい名前を目にしました。
主題歌を歌ってるんですか?
楽しみにしたいですね~。
こんばんは~♪
(笑)どん底に落ちたロークは、苦労したので、いい人になった
みたいですからあ(笑)
エヴァンの大きな画像美しいですね。
アクロス~の時とはまた違った感じがしますね。
この作品はロークがラムをやったからこそこう言う作品に
なったと思います。ローク復活です\(^O^)/
トメイの裸体はあっぱれ!
43歳であのスタイルはたいしたもんです!私もフラフープ買おうっと(爆)
この作品は評判もいいですよね★
プロレス好きではない私もぐっとくるものがありましたよー
やっぱりボーさん、エヴァンレイチェルはもうお気に入りですね~
^^
現在は赤毛にしてて全然イメージ違うんですよね。
マンソンの影響が相当だったと思われます(笑)
ダメオヤジなミッキーに感情移入しちゃいました。
>あんさん
苦労も必要になっちゃうんでしょうか。
>私もビアンだと思いました
ん? 私はそんなこと言ってませんよう~。雰囲気は多少ありましたけど。
>kiraさん
あらま、思わず読んじゃったというのは、うれしい限りです!
スプリングスティーンは私は全然、気にしてない歌手なので、そんなに心に染みてくるほどではなかったです。ぴったりな歌詞だなーと思いながら聴いていたら、そりゃそうだ、この映画のために書いた歌でした。
>ひろちゃんさん
ジョークですかねえ。そんなに簡単に、いい人になるとは思えないですけど。ジェラシーがあったりして?(苦笑)
今回のエヴァン、プライベートでよくやってたゴスロリに近い感じも受けました。顔が白いから、メイクで、陰影をはっきりさせられるんですよね。
ロークの起用は大ヒットでした。こういうふうにキャスティングがハマる映画はラッキーですね。
フラフープ・ブーム、復活したりして。あ、ここの読者の中だけか。(爆)
>migさん
私も猪木の時代はプロレスを見てましたが、特別好きということもないですね。
エヴァンは、私が好きな映画にも出ているし、お気に入りに登録済みです!
マンソンの影響…まあ、影響されそうな相手ですよね。しばらくは 。
ダメだけど精一杯な男の生き方、輝いていました。
マリサ・トメイ、フラフープであの体型を維持してるんですか♪
確かに腰回りに効きそうな気がしますね~。だけど、うちの部屋の中だと、家具とか移動させないとぶつかっちゃいそうだなぁ(もうやる気になってたりして^^;)
>kiyotayokiさん
フープノティカとか、いろいろ、よさそうなものが出回っているようですよ。
もしやるなら、継続しないと、いけないですね。
不器用ですが・・・
とっても気持ちがこもった感想に感動しました~
マリサ・トメイは盛りを過ぎた女の役だったけど、
全然そんな風に見えませんでしたよね~
美しくて魅力的。若い娘よりも良かったなあ。
不器用でも自分の確固たる居場所を見つけた彼は
幸せだと思います。
>YANさん
不器用で寂しい悲しい男ですが、私はハッピーエンドが好きなので、そうしてあげたいなあと思いますし。
私なら、ほかの生活を、なんとか、しますけどね。彼は不器用すぎて…。
マリサさんもよかったですよね。いっしょの映画に出たエヴァン・レイチェルが損したようになってしまいます。
不器用な男の生き様
レスラー人生もピークを過ぎ、娘とは絶縁状態、ステロイドの影響で心臓は弱っているありさまの中年レスラー ランディー。
せっかく 親子関係を修復するチャンスだったのに娘さんとの約束すっぽかすのは さすがにマズイよ~(´Ц`)
マリサ演じるストリッパーのキャシディのトップレスにTバック姿で踊る姿はとってもキレイでしたよ。
自分には「この場所しかない」不器用な生き方しかできないランディーは やはり 悲しい男です。
あっ、そうそうボーさん・・・同じミッキー・ロークの主演の「ホーム・ボーイ」という'88年の映画 知っていますか?
こちらは、ロークが アメリカ各地を渡り歩く流れ者ボクサーのジョニー役です。元妻のデボラ・フューアーと共演しています
これ以上説明するとネタバレになりますので 省略しますが レスラーのランディーとはまた違った男の不器用さを「ホーム・ボーイ」のジョニーは持っています。
「レスラー」と「ホーム・ボーイ」 ともにミッキー・ロークの主演で、ふたりの不器用な男が主人公 ランディーとジョニー
ふたつの作品を比べながら見るのも 悪くないですよ
>zebraさん
コメントありがとうございます。
人生を器用に渡っていけない男。ロークが演じるから、サマになったのでしょうね。
「ホーム・ボーイ」というのは知りません。同じくボクサー役だったのですか。ご紹介ありがとうございます。機会があって興味が出たら、チェックするかもしれません。
トラックバック
http://bojingles.blog3.fc2.com/tb.php/1574-c875ac3f
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
私の言いたいことがほとんどすべて含まれてます。
最後のピント嬢への言葉は正に!ハード・ボイルド!
愛情がなければ吐けない言葉なのです。これこそが酸いも甘いも噛み締めてきた男の言葉・・・。
映画と関係が大有りになってますよ、私の視点では。
正にこの感覚こそが、監督とロークとトメイが共有して、素晴らしい表現になっている源です。
いやー、締めには最高でしたよ。
☆☆☆☆☆