「告白」 - 2010.06.19 Sat
中島哲也監督の作品は「下妻物語」(2004年)、「嫌われ松子の一生」(2006年)、「パコと魔法の絵本」(2008年)と見てきて、エンタテインメント性に優れた面白さは、いつも期待を裏切らなかった。
洋画中心の映画ファンである私が、中島監督の映画なら観たいと思うのだ。

(c) 2010「告白」製作委員会
ほかの監督さんにも素晴らしい人はいるだろうが、私は邦画は多くを見ていないので比較することはできない。
できないが、中島監督の映画が並ではないことは、わかる。
今回は、じつにシリアスな話を原作(2009年の本屋大賞受賞作)に選んだ。そして、またもや魅せてくれた。
中学校の終業の日。1年B組の担任・森口(松たか子)がクラスで話をしている。
生徒たちの多くは、友だちとおしゃべりをしたり、まじめに聞いていなかったり。
まず思った。こういう光景が、実際にあるのだろうかと。あまりに先生の威厳がなさすぎるのでは?
私自身の経験からいえば、こんなことは絶対になかった。先生の話は静かに聞いていた。当たり前のことだ。
なぜ先生が、これほどナメられるのか。
先行き、将来が明るくないのも影響しているような気もする。
いろんな情報が入ってくる環境で、希望がもてなくて、子どもたちは素直さを保てずに、刹那的になるのかも。
生徒たちの、エイズについての知識のなさには、ほんとにあれほど知らないのかと不思議だった。ひとりくらいは知っていてよさそうだし、それこそネットで調べたりできるのではないか。
そこは少し納得がいかないが、まあ、作り事の世界だから、いいとしておこう。
少年法によって、他人を殺しても自分の命は守られている子どもたち。
殺したといっても、そこに至るまでの心理や事情によって、罪の重さには差が出ると思う。
それを正確に判定し、犯人を罰するのは難しいはず。
この映画では、殺人の経過が描かれるから、人の命を尊重しない、こんな奴らは許せない、という気持ちで私たちは観ている。
悪い奴なのに、法律は死刑を与えない。では、被害者側の家族はどうするのか。その気持ちはどう収めたらいいのか。
ここに示される復讐劇の、ある点については、どうしても賛成はできない。
犯人は、こらしめてやりたいが、どこまでやっていいのかは難しい。
しかし森口先生も、考え抜いたことなのだろう。苦しんだに違いないのだ。…と思いたい。

(c) 2010「告白」製作委員会
つい、まじめに語ってしまったが、映画に戻ると。
中島監督の映像センスやイメージは、今回も炸裂(さくれつ)!
内容は重いが、表現の面白さは、もう、あきれるほどに天才的。ほかに、いい誉め言葉が思いつかない。
ふと思ったのだが、中島監督の海外での評価って、どうなのだろう。輸出されていないのか。いいと思うんだけど。
松たか子の能面演技。(そうでなければ感情に負けて、自分自身がくずおれてしまいそうでもあったのか。最後までやり遂げるためには。そして最後の最後の感情は…。)
その対極に置かれた、木村佳乃のわざと大げさな演技とその終焉。(最後に、あ、そうだ、日記を書き終わらせなきゃと、なんでもないようにしている様子がすごい。これから、とんでもないことをしようとしているのに。)
人の命を奪うことは、いけないことだ。そのシンプルなことを理解できない人間が出てくるのは、なぜなのか。
人間の、そもそもの性(さが)か。
それとも、この世界の、なにかが悪いのだろうか。
(6月6日 MOVIXさいたま)
2010年作品
監督 中島哲也
出演 松たか子、西井幸人、橋本愛、藤原薫、木村佳乃、岡田将生、黒田育世、芦田愛菜
参考:参考:告白@ぴあ映画生活

好き度☆☆☆☆★(4.5点。満点は5点)
● COMMENT ●
>まおさん
重いのですが、面白い、とも言えます。
原作を買ったものの読んでいなくて、比べようがないのですが。
中島監督の映画は、見逃すと、もったいないと思いますよね。
凄かったです。
私も邦画は年に数本しか観に行かないし、こちらも娘に「岡田君♪」と誘われ、評判も高いしハリウッドからオファーがの話もありで、どっこらしょと軽い気持ちでいきましたが、もう、ビックラこく衝撃作品でした。
素晴らしかったです。
監督は「下妻~」とかポップで軽快なイメージでしたが、トコトンの作品作ってくれましたね!
娘は現役中学生にまだ近いので、思わずあんなだった?と聞きましたが、全然~酷いよぉ~あれ…と言うので、少しホッとしました(苦笑)
>オリーブリーさん
岡田くん目当ての観客も多いと思いますが、映画自体には驚いたかもですね。
ハリウッドのリメイク? いいですね!
題材の衝撃に、映像の面白さがプラスされて、私は、やはり素晴らしいエンターテイメントだと思います。
凄い映像センスでした♪
> 中島哲也
そうか、この監督が凄いんですね。ちょっと「へえ~」かも知れませんが、「嫌われ松子の一生」、巡り会わせが悪くて、ちゃんと見た事がないのです。それでその監督の凄さをイマイチわかっていなかったと言うか。
何か、見せてくれましたよね、この映画。凄かったです。
教室での生徒の煩さと、エイズの反応。私も違和感感じました。でも、考えてみればそう言う所に違和感で、違う部分はあり得そうに感じるのも、怖い事だなと思ってみたりして(笑)
凄い映画だったなぁ~の一言に尽きます。今年初めての満点にしちゃいましたよ~
私は、この映画は、いかにも現実にありそうな仮面をかぶった究極の作り話(しかもホラー系)として観ました。その辺の妙な違和感になんとも言えず惹かれました。
出演者の皆さんも上手かったですよね~
松さんは勿論のこと、少年AとBも凄かった!!あまりにも上手いので、変なトラウマを抱えないかと心配ですよ。
今週号の…
本来はいけないことなのでしょうが、私は観ていて実に痛快。何も解っていないくせに大人と、まして教師と対等であろうとするクソガキなど、精神崩壊して当然、むしろザマーミロとすら思っておりました。
簡単なことなのです。悪意を持って罪を犯したならば然るべき償いをする。そこに年齢で差など設ける必要などないです。更正したければ刑務所の中ですれば良いだけですから。こんな基本的な事が出来ないから、この物語のように全員が不幸に陥るのだと思ってます。
実は前からボーさんのことが・・・
中島監督、取り立てて好きというわけではないのですが、気になる監督さんですね。「泣かせ」一辺倒の邦画界の中では、特異な存在だと思います
まあ『パコ』には泣かせられましたけど
今回は「へー、こういうのもできるんだ」と意外な気持ちで観てました。従来のファンキーなノリでの『告白』も、ちょっと見たかった気もします
松たか子の「顔力」はすごかったですねー さすが幸四郎の娘だと思いました
こんにちは~♪
恭子ちゃん主演の「下妻~」に関してですが、
フランスのティーンが選ぶ映画賞で、ベスト1に選ばれました(^_-)☆
アメリカでも上映されて「カミカゼ・ガールズ」(笑)熱心なファンがいますよ。
恭子ちゃんを抜きにして語れない私が言ってもあれですが(爆)
今回はちょっと気負いすぎな感じがしました。
監督のオサレな映像センスが、テーマをぼかしてしまった感じがしちゃいました。
松さん、木村さんは良かったですね~。
>kiriyさん
そうでしたか。中島監督の映画は面白いですよ。
といっても私も記事に書いた作品しか見ていませんが。
原作の選び方がいいのには間違いないのでしょうけど、それを面白い映画にする手腕があると思います。
原作を読み始めましたが、先生の告白話は、今のところ、生徒の様子が書かれていないので、もしかしたら原作では静かに聞いているのではないか、なーんて思ったりして。
どの程度、脚色したのかも興味深いところです。
>由香さん
満点ですかっ。私も4.5点は満点と同じ扱いです。
私は観ている間は、ほんとの話のように思っていました。
でも、由香さんのような見方もあるなと思いますね。
作者が言いたいことを提示するための作り話。
犯人の少年役は、がんばってましたね。精神的に追い詰められてしまいますけど、映画の上の話なんだって、うまく気持ちが着地できているといいですね。
>KLYさん
井筒監督が他の映画を批評する番組もありましたが、ほんと、好き勝手に言ってましたね。
それは自由ですけど、あまりに一方的だと、何の共感もできないという…。(苦笑)
氏の作品では「パッチギ!」は見ましたが、あまり好きではないです。けんかばっかりしてるし。
単なる生意気なのは、実際、クソガキと言いたいですね、私も。
クソガキ中学生のために、実際に不愉快な思いをしたことさえあります。
少年法に対しては、批判的な声が多く出てきていますから、もうすこし思い切って直してほしいですね。
>SGA屋伍一さん
…って、このタイトル、ほかの方のところでも使っていたのを知っていますので、どっきりしませんでした。ご心配なくっ。
「ファンキー」という面では、今回は違ったアプローチだったかもしれないですね。
私の中では、けっこう、どれも同じくエンタメな感覚があります。重くてハードだけどエンタテインメントに思えるのですよ。
松たか子。テレビのCMみたいに、空港で待ち時間をはしゃいでいたりするだけじゃないんですね。(当たり前です。)
>kiraさん
おおっ。フランスのティーンが選ぶ賞で「下妻物語」が1位! 納得ですねえ。あの弾け方は楽しいですもん。
「カミカゼ・ガールズ」は笑えるけど、たしかに暴走ヤンキーですからね。
なるほど。監督の映像センスと、物語の内容に、合わないところを感じられたのですね。
監督の映画作りの感覚は独特な部分もあるので、感じ方は人それぞれなのでしょう。
松さん、木村さんには、文句なしです。
遅くなりました。
テーマは重いのに、映像はポップ。
でも、やはり映画は重さを感じさせる。
こんな離れ業ができる監督は
いまや彼だけでしょう。
中島監督、同時代の監督の中から
一歩抜きんでた気がします。
>えいさん
重さとポップが同居して面白い体験でしたよね。
ほかの日本映画の監督は、よく知らないですが、中島監督は面白いので、監督の名前で映画を観てしまいます。これからも楽しみ。
考えさせられますね。
邦画第一位ですか。文句なしですね~。
中島監督、お好きだったんですね。私は「嫌われ松子~」だけでしたが、この「告白」観て中島監督の見方が変わりましたね(笑)
テーマは重いですが、命を題材にした素晴らしい作品だと思います。
松たか子の取る行動に対しては賛否両論でしょうけど、いろいろ考えさせられますね。
>チェズさん
日本の映画は、ほんとに見ていませんが、中島監督の作品は面白いと思います。
心情的には、先生を応援してしまいます。
犯人のお母さんについても、批判する気にはなれません。最後以外は、ですね。
またお邪魔します
新しい映画の記事、ボーさんが言う程短くないし、
とりあえず記録しておくには充分な内容だと思います。
この映画、ボーさん初め皆さんの評価がすごく高いですね~
確かに、衝撃を受けたし、映像も良かったし、
松たか子さんの演技も素晴らしかったけど、
なんか、「好き」という感情はわいてこなかったんですよね。
元々、好き嫌いが分かれる内容ですもんね。
でも、引き付ける力のある作品だと思いました。
>YANさん
そんなこと言ってくれるのはYANさんのみです。
自分でも、おお、何行も、いってる!と驚きます。私の場合、ちゃんと書こうとすると数時間かかりますから、適当に書いたほうが楽でいいのかも。
はい、「好き」とは違いますね、私も。
映画の作り、表現、センス、内容といった点では、唯一無二で、えらく興味深いものだと思います。
惜しくも、アカデミー賞外国語部門ノミネートはなりませんでした…。
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(嫌われ松子もそうでしたが…)
中島監督でないと「観よう」と思わないかなあという映画です。
でもやっぱり監督らしさが出ているようですね、楽しみ。