「空中庭園」 - 2005.10.15 Sat

(c) 2005「空中庭園」製作委員会
公開前、監督が覚せい剤取締法違反で逮捕され、一時は公開中止も考えられた作品。
メールなどで公開を熱望する声が寄せられたことが、公開に踏み切る原因のひとつになったのだから、インターネットの力の大きさには感服する。
それでも、銀座の映画館など上映中止とした劇場もあり、公開規模は縮小した。
私は、渋谷の映画館の初日初回に観に行き、思ってもみなかった小泉今日子さんたちの舞台挨拶を見ることができた。
ユーロスペースという小さな映画館も、初めて入った空間だった。
そんな、いろんなことがあり、思い出に残る映画になった。
「何ごともつつみ隠さず、タブーをつくらず、できるだけすべてのことを分かち合う。それが私たち家族の決まり…」
私の家では隠し事は、いっさいない。
これが主婦・絵里子の作った方針。
そんな家族の裏に潜むもの。
映画の始めのほう、画面が揺れる。
見せかけで安定している仲良し家族は、一皮むけば、それぞれが不安定に揺れている。
そういうことなのだろうが、この「ゆーらゆら」には、けっこう酔いそうになる。
揺れに弱い人、体調のよくない人は、目をつぶっていたほうがいいかも。(笑)
テレビで放送するときは画面が小さいから平気だろう。と思いたい…。
主婦・絵里子の役に小泉さん。絵里子には2人の子どもがいる。
小泉さんは実際30代後半だから(と改めて書くと信じられないけど)、本当に高校生の子どもがいても、おかしくないんだよなあ、などと考えながら観ていた。
絵里子は、パートの同僚の娘に、どうしていつもニコニコしてるの?と聞かれる。仮面。幸せな主婦を演じるための。
コンビニで立ち読みしている母・絵里子を見つけて、娘のマナ(鈴木杏ちゃん)が、そっと後ろから近づいて、ナンパオヤジの声色を使って声をかける。
振り向いた母親の怖い顔。マナは驚く。ふだんのママじゃない。
きっとマナは、母の仮面の内側を垣間見たのだろう。
絵里子が幸せな家庭を作りたかったのには、絵里子の母親の存在が大きかった。親に大切にされて育てられなかったことへの反動。娘の心の中には、母との確執が巣食っていたのだ。
絵里子の母を演じる大楠道代さんがいい。
さすがの貫禄、うまいのである。
ラブホで披露するお茶目なシーンもあれば、しっとりと泣かせるシーンもある。
他には若い演技者ばかりのメインキャストの中で、しっかりと「くさび」のように映画を落ちつかせている。
絵里子の夫と息子に絡んで、ミーナ(ソニン)という女が登場してくる。
唯一、家族外の人間として、絵里子一家の観察者となり、外側から家族に影響を及ぼす。
さあ、それぞれが問題なし、隠し事なしを装う家族の、虚飾の姿は保たれるのか。
劇中、小泉さんの叫びがある、とKさんに教えてもらっていた。
いったい、どんな状況で叫ぶのかと思っていたが、これは、すごかった。
想像以上。感動して泣けてきた。
この叫びは、ある意味「荒馬と女」でのマリリンの叫びのインパクトに負けない。(こうやって比べるのは2人のファンの私以外にいるまい。だいたい、叫びの種類が違うんだけどね。)
彼女の叫びが、まさしく映画のクライマックスだ。映画的な視覚効果も使って、どきりとする印象を与えている。
最後は、いったいどうなることかと思った。まったく予想がつかず。
結果、映画がたどりついたエンディングは好きだ。気持ちは複雑だけど。

(c) 2005「空中庭園」製作委員会
空中庭園は、バビロニアの首都バビロンにあった巨大な庭園。実際には空中に浮かんでいなかったのだが、高さは10メートル少々もあり、その巨大さゆえに、あたかも空にそびえるようにも見えたのか。紀元前600年頃のものと言われる。
団地のテラスに、絵里子はガーデニングで庭を作っている。それが、外から見ると、空中の庭に見える。
また、バビロンの空中庭園は、一家の食卓の蛍光灯のランプシェードの模様として、象徴的に描かれてもいた。
1000円のパンフレットは、映画の台本に加えて、原作者・角田光代さんによる「空中庭園」の続編「夜道の家族」が掲載されている豪華版。
映画の場面の写真が少ないのが残念だけれど、記念写真で小泉さんと杏ちゃんが並んで座り、頭を寄せて、くっつけあっているのが、仲が良さそうで可愛くて、すごく微笑ましいのだ!
(10月8日)
2005年作品
脚本・監督 豊田利晃
出演 小泉今日子、大楠道代、板尾創路、鈴木杏、広田雅裕、ソニン、永作博美
トラックバックは、空中庭園@映画生活様に。
評価☆☆☆☆(4点。満点は5点)
当ブログ内の関連記事:「空中庭園」待機中、空中庭園を観たよ!、「空中庭園」 角田光代
● COMMENT ●
こんばんわー
>ルッカさん
家族内のゴタゴタな話ですから、人によって受け取り方は違ってくるかもしれませんね。
私は小泉ファンなので、それだけで満足な面もあります。
観たら感動して好きになるような映画でも、観逃しているものは多いでしょう。できるだけ、好みの映画と出会いたいですよね!
待ってました!
感性に訴えるほんわかタイプの映画を想像していたのですが、意外にその内容は重苦しい感じなのでしょうか。
あと、ボーさんが泣けた「叫び」のシーン、監督&キョンキョン曰く「産声」のイメージだとか。これもちょっと意味深だわ。
コチラ→http://www.flix.co.jp/v2/article/A0000906/A0000906.shtml
(このキョンキョン、可愛いッスね。む、胸が・・・うらやましい)
待たれてました!
ええ、「ほんわか」ではないです! 夫や息子なんかは、そんなに緊張感なく、基本的に、のほほんとしてるんですけど、小泉さんの主婦ですよ、張り詰めてるのは。
記事紹介、ありがとうございます! この彼女、いいですね! む、胸が…こんなに強調されたドレスを着てるのも珍しいんじゃないでしょうか。永久保存しようっと…!
産声ですか。なるほど…。納得できます。
ほほう。
いや、冗談冗談。
で、キョンキョンの代表作になるだろう、って絶賛されてますね、この作品。彼女が叫ぶシーンは、映画のオリジナルですよね。原作にはそういうところはなかったです。
たぶん原作のほうが静かに壊れていく感じじゃないかなぁ。
登場人物がみんなちょっとずつ病んでいて、わたしがもっと若かりし頃、とんがって虚無的だった時代なら、すごく共感できたかなーと思いました。映画はまた違った魅力があるでしょうね。
>ふふっ。
ええ、そっち系大好きです。素直なもので、見たものに、そのまま反応するんですねえ。^_^;
いま読んでますよ、原作。映画と同じところ、違うところが分かるのも面白いです。
紅玉さん、とんがり&虚無的だったことがあるんですかっ! 興味あるなあ…。見てみたかった!
キョンキョンの代表作は、永遠に「次の作品」です。(なんちゃってねえ!)(^○^)
原作とはいくつかの点で、異なります。相手への殺意を実現する「妄想」(血しぶき)は、映画のもの。叫びもそのなかのひとつですね。
パンフレットがそういうつくりだったんですか。買ってもよかったな(笑)
>kimonさん
私も映画を観たあと、原作を読みました。
改めて、映画は映画なりの見せ方が、うまくできていたと思います。
パンフは高いなあと思ったのですが、小泉さんファンなもので…。
また、遊びにきてくださいねー!
今頃ですが
いつもTB&コメントして戴いているので、たまにはこちらから出かけて参りました。
私の映画評は、内容を奥深くまで追究せず、構成・演出・映画的魅力といったところで留めてあります。
本作は、狙いとして解らないこともないですが、揺れるカメラワーク、赤い雨は過剰な演出と思いました。それなしに十分内容を表現できる力があると思うだけに却って残念です。
ということで、本年も宜しくお願い致します。
>オカピーさん
私の場合、小泉ファンですので、公正な評価はできない映画ですが。赤い雨も許せたりします。
けっきょく、いまだに1回しか観ていなくて、再見したときに何かを新たに発見するのか?が楽しみな作品のひとつでもあります。
今年もTBなどに伺うと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
はじめまして
怖い映画だと聞いていたので、なかなか手が出ませんでしたが、
面白い、不思議な作品でした。
肉親って、こじれるとどうにも立ち直れないくらいの深手を与えるけど、
些細な事で一番救えるのもまた身近な肉親かも知れないと
改めて感じたりもしました。
キョンキョンはすっかり女優さんですね~♪
TBさせて下さいね。
>kiraさん
私は小泉さんファンなので、それだけで観に行きましたが、かなりユニークな映画でしたね。
あんな人間関係が実際にあったらハードすぎますが、映画だから観て楽しめるものですね。
コメント、TB、ありがとうございました!
どうぞ、また遊びにきてくださいねっ!
コメントとTBありがとうございます。
小泉今日子さんの舞台挨拶。ファンであられるボーさん、よかったですね。
映画では、彼女と母の確執は、両者の冴えた演技力で、見応えがありました。
その轍を踏まぬため、「何事も隠し立てしない」ということに拘った絵里子の心中は分かるのですが、、。
どちらが良い悪いは別にして、私のような古い人間には、平成の若い家庭や社会の実態を認識しただけで、なんだか消化不良のような、違和感めいたものが残りました。
>ascapapaさん
もう、ずいぶん以前の映画のような気がしていますが…日本の家族を描く映画の中身も、ずいぶん変わってきているようです。
私もピンとこない映画の場合は、自分の中に受け入れられるかどうかは、素直に感じるままでいいのだろうなあと考えています。
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鈴木杏は好きなんですけどね。
映画って本当に沢山あるし、時間も限られてる。
生きてる間に何本見れるんでしょうか。。