「ホテル・ルワンダ」 - 2006.01.24 Tue

インターネットのコミュニティmixiから始まって、上映を求めるためのホームページでの署名運動に広がり、とうとう日本での劇場公開が決まった作品。
私は、この映画のことは、2004年の12月には知っていた。ナショナル・ボード・オブ・レビューでベスト10映画の第10位に入っていたのだ。
ところが、なかなか公開されないので、そのうちにDVDで初登場するのかなあ、と考えていたものだ。
ネット上で映画の上映を求める運動があったなんて、映画が公開になってから初めて知った。
ネットのパワーもすごいが、運動を続けた人たちのパワーもすごい。
私が観たときは、シアターN渋谷(映画館「ユーロスペース」の跡をそのまま使っている)という小さな劇場のみの上映だったが、このあと公開劇場は増えていくようだ。
デンゼル・ワシントンなどの大物俳優を主演にしたらどうかという声に耳を貸さず、監督はドン・チードルを使ったのだという。
それによって、主人公が本当に、ごく普通の、どこにでもいるような人であることが感じられ(というと、チードル氏には申し訳ないみたいだが)、身近に思えるドキュメンタリー性を持った。
テリー・ジョージという監督を知らなかったので調べてみたら、「父の祈りを」(1993年)「ジャスティス」(2002年)などの脚本家で、監督作はテレビ映画など数本。それほどキャリアがあるわけではなさそうだ。
映画は、1994年のルワンダ大虐殺のとき、ホテルに約1200人をかくまった支配人の話。
主人公が人をかくまったのは、なかば行きがかり上といえなくもないが、彼に課せられた責任の重さ、自らの生死もかかった、そのプレッシャーとの戦いは、どれほどのものだったか、想像するに余りある。
でも、こうなったら、もう、やるしかない、という感じでもあっただろう。
そういう状態で、どこまでやれるか。それが問題なのだ。

(c) 2004 Kigari Relersing Limited.
民族が違うというだけで殺しあう。
特にこの映画に描かれたフツ族とツチ族は、見かけは変わらず、お互いの区別はつかないように思える。
それでも一国の支配が絡んでくると、民族同士が対立してしまうのは、どうにもならないことなのだろうか。
そこで単一民族の日本を考えてみると、しかし、たとえば一部の日本人ではない人たちについて、差別の目が残っている、その事実に気づく。
人間というのは、争いごとと無縁ではいられないのか。
ルワンダには国連軍もいた。だが国連軍は平和維持が目的。争いが起きても手を出すことができない。
内戦が大きくなってくると、いわゆる先進国の政府は、自国民をルワンダから引き上げさせる。
他の国はルワンダを助けない。
殺されそうになっている人々を助けない。
ホアキン・フェニックスが演じるカメラマンは、引き上げる際に嘆く。
何もできずに逃げるように帰るのは「恥ずかしい」と。
彼は、次のようなことも言っている。テレビ放送で虐殺の様子を見ても、視聴者は、ひどいことだね、と顔をしかめて、それで終わり。
しょせん他国の出来事でしかないのだ。ほうっておいていられるのだ。
先日に観た「スタンドアップ」同様、実際にあった事件を広く世間に伝えるという意義は大きい。
この映画を観るまで、こんな事件のことは知らなかった、と感想で語る人が、いかに多いかを見ても、たとえ10年前の話ではあっても、存在価値がある作品なのだろう。
(1月21日)
HOTEL RWANDA
2004年 イギリス・イタリア・南アフリカ作品
監督 テリー・ジョージ
出演 ドン・チードル、ソフィー・オコネドー、ファナ・モコエナ、ハキーム・カエ=カジム、ニック・ノルティ、カーラ・セイモア、ホアキン・フェニックス、ジャン・レノ
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評価☆☆☆★(3.5点。満点は5点)
● COMMENT ●
はじめまして
>ノラネコさん
確かに、10年前のこととはいえ、この映画ができなかったら、それを知らない人がいたわけです。そういう意味では、事件の風化を少しでも防いでいるのですね。
こういうところも、映画の素晴らしい点だと思います。
また遊びにきてくださいね~!
記事、ありがとうございました。
今、通信教育で「ヒアリングマラソン」と言う英語教材を聞いてるのですが、今月は「ホテル・ルワンダ」の映画ダイアログが収められていました。
オリバー大佐との会話がショッキングでした。
DVD発売まで、待ちます。
>uniko@ニャンくんさん
うーん、そうですよね。公開劇場が限られている映画なので、映画館で観られない方が多いのは、惜しいと思います。
英語教材で「ホテル・ルワンダ」が使われているのですか! すごく新しい素材を取り上げていて、良心的ではありませんか。
ぜひ、DVDが出たらチェックしてみてください。
大切に残していかなければ。
そしてこの作品が無かったら、記憶からも消えたかもしれない。
重大な事実なのだから、こうした一流の作品になって本当によかったと思います。
それにしても、こんな素晴らしい映画の配給がつかなくて公開がこれほど遅くなるなんて。
署名活動など、日本公開に尽力して下さった方へ感謝。
>紅ナナカマドさん
少なくとも現在は内戦のない日本は、幸せだと思います。
民族として、ひとつなのも幸いですよね。
あまり有名でない監督の作品だったので、少し心配だったのですが、上手に作ってくれました。
ドン・チードルの好演が、印象深く残ります。
今日観てきました
特にこの映画を観ようと思っていた訳ではありません。
たまたまレビューランキングで上位だったので。
だけど本当に観てよかった。
しかもこんな事件があったこと自体知らなかった自分が恥ずかしく思えました。
あまりにショックで言葉を失いました。
本当にニュースで放送されないと、私たちは何も気づかないんですね。
しかもちらと見て、かわいそうだね~なんて軽々しく平気で言ってのける。
本当に恥ずかしい事だと思いました。
日本の、いえ世界の人みんなにこの映画を観てほしい。
そしてこんな事は二度と起きて欲しくない。
>Naomiさん
あまり期待しないで観たほうが、いい映画を観たときの感動は大きいかもしれませんね。
それに、あの事件のことを知らなかったなら、なおさら衝撃度は上がるでしょう。こんなふうに映画で、重たい歴史を知ることって、たくさんあります。それを自分の中で、どう考えて消化していくか、それが大切なのでしょうね。難しいことですが。
TBお返し頂きありがとうございます。
これから第二の『ホテルルワンダ』が制作
されることのないよう
新たな犠牲者がでないよう
そうしていくための映画だと
そう思います。
>Anonymousさん
レビューを読ませていただきましたが、この映画によって考えさせられることを、見事に論じておられて感服しました。
こんなことが実際に起こった、という事実を忘れず、そこから皆が考えていくようになればいいですね。
繰り返される歴史
繰り返しちやうんですよね、人間って。哀しいことに・・・。
いくらこうやって映画で見せつけられても。
たとえば南京大虐殺はなかったと主張する日本の歴史家や政治家の人たちは、
「繰り返し」をしてしまう予備軍かもしれません(いつになく悲観的になっております^^;)。
>kiyotayokiさん
日本でも大昔から「乱」「いくさ」「一揆」などの戦いは続いていましたし、太平洋戦争前までは、対外的な侵略戦争を起こしていました。
人間ってのは、どうして、そうなんでしょうね…。
娘がmixiに夢中になっているので胡散臭いと思っていたんですが、
バカにしてはいけませんね。(^_^;
上映を求める運動・・・こういう行動こそ、
この映画が求めている、そのものじゃないですか!
無関心でいない事、見て見ぬ振りをしない事、
このような事が大切だと気付かされました。
私たちが、この作品を観て何かしらブログで発信した事は、
何も知らずにいた状態よりはましじゃないですか?
って、うぬぼれかなあ~(^^ゞ
私もmixiに入ってるんですよ。外部ブログを使うということで、このブログですけど。
そう、何も知らずにいるよりは数段違うでしょう。直接は何もできないとしても、何かを感じたり考えたり、発信することは大切と思います。
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>たとえ10年前の話ではあっても、存在価値がある作品なのだろう。
その通りだと思います。
現実にアフリカの戦火は続いていますし、知っているのと知らないのは全く違いますからね。
人間が人間たる所以が知性だとしたら、現実にあったことを知らせる意義は大きいと思います。
一人でも多くの人に観てもらい、何かを感じて欲しい作品です。