「エミリー・ローズ」 - 2006.03.19 Sun

ていねいに作られた良作。まったく飽きることなく楽しめた。
悪魔払いを受けていた少女が死亡して、担当の神父が起訴される。少女は本当に悪魔に取り憑かれていたのか、それとも病気だったのか。神父の処置は正しかったのか。裁判の行方は…?
まず、日本でのテレビCMに文句を言いたい。
取り憑かれた少女の恐ろしい姿だけを画面に出し、まるで、単なる恐怖映画と思われるような宣伝をしている。
たしかに悪魔憑きのオカルトの味付けはあって、怖いところもあるが、じつは、裁判の様子を描いた法廷劇でもあるのだ。
理性ではとらえることができない怖さがある悪魔憑き(または病気?)に関する場面と、逆に、理性で構成していく知的スリルと面白さのある法廷劇をうまく両立させて、そのバランスがいい。
テレビCMでは、主演のローラ・リニーやトム・ウィルキンソンは、一瞬たりとも出てこなかったと思う。CMの短い時間じゃ、インパクトのある場面を流して話題を作るだけしか、しょうがないんでしょうかねえ。(そういえば、上のポスターでも主演2人は出てないね。)
でも、怖い映画が嫌いな人は、それだけで観に来なくなる。(逆に、好きな人は来る、ということはあるけれども。)
怖いのは、映画の、一部分だけのことなのに。
私は、事前の知識をあまり持たずに映画を観ることも多いので、誰が出ているのかをほとんど知らず、この映画をただのホラー映画かと思っていた。法廷劇だという噂を聞き、私は、そういうドラマが好きなので、観てみようと思ったのだ。
見逃さないで助かったよ。だって…ローラ・リニーさんが主演なんじゃん!
敏腕弁護士を演じたローラ・リニーさん。素晴らしい演技ができる、味のある女優で、私は好きだ。
たっぷりと画面に登場してくれたので、彼女の演技を堪能できた。嬉しい。
彼女のファンの方に一言。ホラーっぽいからといって、この映画を避けたら、本当に、もったいないですよ。
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(c) 2005 Sony Pictures Entertainment (J) Inc. All rights reserved. |
神父役のトム・ウィルキンソンも、存在感がある。最近では「イン・ザ・ベッドルーム」「エターナル・サンシャイン」などが印象にある、実直そうで落ち着きのある俳優。
エミリーを演じたジェニファー・カーペンターさんは、この映画の前に、ローラ・リニーさんと舞台で共演していたという。
リニーが監督に推薦して、今回の出演が決まったと聞くから、リニーは彼女の演技力を買っているのだろう。悪魔憑き(または病気?)の迫真の演技をはじめ、見事に映画のポイントになる役柄をこなした。
はじめは、可愛くねーなー、と思ったのだが(ごめんね)、実力ありますね。(ラジー賞以外の)どの賞でもいいから、助演女優賞をあげたいくらいだ。
映画の作りも素晴らしい。
男が田舎の一軒家にやってくるオープニング。導入部の雰囲気作りの上手さ。
ホラー的な部分を言えば、少女に関するところだけでなく、神父や弁護士を襲う午前3時の怪奇現象も、ぞくぞくするサスペンスで上質。
医学的見地から迫る検察側に対して、いかに弁護側が対抗していくか、その対決も非常に面白い。
弁護士は自分のことを「不可知論者」と言っている。無神論ではなく、神や悪魔がいるのかどうかは分からない、という立場であり、私自身もどちらかといえば似たような考えかただから、彼女には共感して観ていた。とくに彼女の最終弁論は、とても納得ができるものだった。
怪奇な現象が、不可知な外的な力によるものなのか、病気による人間の脳の働きが生むものなのか。それが分からないとすれば、神父の行動を評価するのは何か。
いかにも映画という娯楽にふさわしいといえそうな結末が用意されている。
実際にあった事件をとりあげたせいもあるのだろう、実在の人物を思いやる気持ちが映画の中に感じられて、観終わったあとは、怖さなどよりも、なにか悲しいけれど温かいものが残った。
キリスト教徒でもない私には、彼女が苦しむ理由とされたものについて、少し釈然としないものがあるけれども。
(3月18日)
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(c) 2005 Sony Pictures Entertainment (J) Inc. All rights reserved. |
THE EXORCISM OF EMILY ROSE
2005年 アメリカ作品
監督 スコット・デリクソン
出演 ローラ・リニー、トム・ウィルキンソン、ジェニファー・カーペンター、キャンベル・スコット、メアリー・べス・ハート、ショーレ・アグダシュルー
トラックバックは、エミリー・ローズ@映画生活様、七月のうさぎ様に。
追加トラックバック:虎の意地っぱり~何がなんでもタイガース様
評価☆☆☆☆(4点。満点は5点)
● COMMENT ●
時計は恐い
>紅ナナカマドさん
ありがとうございます。いつも来ていただいていたのですね。
カミングアウト(?)してもらえて嬉しいです。
そうですよね! あまり期待しなかったのが、嬉しい誤算でした。
宣伝方法も、もう少し考えてもらいたいものです。
我が家の時計では、ステレオの液晶時計の表示が消えてしまっているという異変が…。(古くなっただけの話。)
北の地から、また書きこみにいらしてくださいね~!
TB、文中リンクありがとーです♪
この映画だって、「実話」に基づいているわけだし、真面目に硬質なドラマ部分をPRすればいいものの、あのCMでは間違いなく誤解を生みますって。果てはイナバウアー騒動ですもん。絶対損してると思うなー。
ところで、例のイナバウアー画像でもチラリと思ったのですが、この一番下の画像なども色使いがもの凄く独特ですね。私は、ふと往年のホラー巨匠ダリオ・アルジェントの映像を思い出したのですが、どうでしょう。
>小夏さん
配給は、ソニー・ピクチャーズです。聞いてますか、ソニー・ピクチャーズさん?(聞いてないね。)
そう、私も写真を見て、色使いがすごいなあと思ったのです。映画を観ているうちには気づかなかったんですけど。こんな色してたっけなあ?
色彩には配慮もしたらしいですが、作り手は、たぶん、ダリオ・アルジェントは意識していないと思いますよ。
エミリーにバラを
アメリカの文豪フォークナーの有名な純文学ホラー小説に
「エミリーにバラを」というのがありますね。
アメリカの人にとっては、エミリーという名前とバラ(ローズ)
ときただけで、格調高いホラーを連想するのかも知れません。
>lalakiさん
原題は A Rose for Emily というのですね。
映画での名前はフィクションのはずなので、その小説から取った可能性は、じゅうぶんにありますね。
いいネタを教えていただいて、ありがとうございました!
あはは
私もこの作品はローラ・リニーだし気になってるんですよ。
「エクソシスト」みたいなオカルトものともちょっと違って法廷ものでもあるんですよね。史実に基づいているという点でも、この事件を実際にどう結論付けたのか、興味ありありです。
>紅玉さん
ローラ・リニー、いいでしょ!? どういう結果になるのか、気になるでしょう?
はい、これは、もう、観なきゃいけませんね。決定~!
遅ればせながら・・・
しばらく「ブロークバック高山病」にやられてたので^^A
法廷の場面、中々見ごたえありました!
こういえば、ああいう、みたいな、駆け引き。
ローラ・リニーさん、これからも注目ですね!
そして神父さん、エミリー、家族、彼氏の固い絆にホッと救われるものがありました。
>uniko@ニャンくんさん
いや、現地には行くけど、かからないかな?
法廷劇って面白いですよね。対決ですもん。
彼氏も偉いですよ。あんなに怖い思いをしながら、それでも彼女を想っているなんて…ううう(泣く)
人の心の底の闇を、ちょっと考えた映画でした。
はぁー、ようやく
昨日は、それぞれ2度づつ挑戦しれ、できませんでしたが、なぜだったんでしょう?
うーん、よくわかりませんが・・・
なんだか、安心しました。
ところで、本当にボーさんの記事って、凄くこの映画の良さが伝わります。
全部そうなんですが、文中に愛が溢れているというか・・・。本当に見習わないといけないなと、思っています。
>最後、何かあたたかいものを感じた
本当に、私もそうでした!
私もこの映画、とても好きな作品です。
ついでにこちらも
エミリー・ローズを見た日に、こんなことがありました、という、日記なんですが、ははは・・・(汗)
でも、8年同じところに住んでいて、この変な虫に遭遇したのは、この時だけだったのです。
>とらねこさん
いやー、見習わなくてもいいですよ~。自分のスタイルでやったほうが楽しくなるんじゃないかと…。
「エミリー・ローズ」は予想を裏切って、それよりもずいぶんと良かった作品です。
DVDは、悪魔払いの様子も収録されているとかで、見てみたいですけどねー。
虫の記事も拝見しました。得体の知れないものは、なんだか嫌ですよね!
良作でした
ローラ・リニーの知的雰囲気がよく出ていて、
ボーさんの言うように、最終弁論がとても上手かったですね。
私も、怖さより、温かさや切なさのほうを感じました。
これが実話だなんて、エミリーが可哀想。。。
でも愛情に包まれていましたね。
>YANさん
これ、思い出してみると、不思議な映画で。印象は薄れてますが、なんだか良かったなあという雰囲気があるのです。
監督は、よく知らない人だったりしますが…。
リニーさん他、演技派が固めてますし。また、いつか見てみたい…かも?
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1ヶ月程前から記事を読ませて頂いてました。
興行的な目的かもしれないけれど、作品のエグイ恐さのみを強調した宣伝にはわたしもちょっと?を感じました。
久々に緊迫感溢れるホラー&人間ドラマを堪能しましたよ。
これからも記事の更新を楽しみにしています。