「ブロークバック・マウンテン」 - 2006.04.05 Wed
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今回は、ネタばれ率が少し多いかも。
映画館は日比谷の「シャンテ シネ」、土曜日の夜。最終回。でも、ほぼ満席だった。
賞レースで受賞しまくったせいなのかどうかは知らないが、皆さん、関心あるんですねえ。
私はといえば、男同士の愛情の話と聞いて、あまり興味はなく、どうしようかなあと思ったのだが、いろいろと賞をとっているから観てみるか、というところ。
映像、音楽、演技ともに、よかったとは思う。
アコースティックギターの音色がいいと感じるのは、心に響くせいだろうなあ。西部の景色にも、ばっちり合うし。
叙情的という意味で、いい役割を担っているよね。
うまいと思う点を、ひとつだけ挙げてみれば、たとえばオープニング。
誰かを待っているような男がひとり。そこに車で、もうひとりの男がやってくる。
2人の様子を見ると、待ち合わせをしていたようでもなく、多少、お互いに居心地が悪そうな2人。
ひとりは相手を意識し、多少、観察もしていたけれど、それは後で、ああ、そういうわけだったのか、と分かる。
また別の男がやってきて、建物の中へ入る。待っていたひとりが入ろうとするが、ドアを閉められてしまう。
その後で、ようやく、最初の2人は、仕事を得るために待っていた2人だった、と分かるのだ。
雇い主は、はじめから愛想良くせず、求職者の目の前でドアを閉めたことで、優位に立とうとしたのだろうか。
それはともあれ、このファーストシーンは、微妙で静かな、お互いの間の空気感が、いい感じだった。
しかし…結論から言えば、私には、男同士の愛情という面では、どうしても共感はできない。
別に偏見を持っているわけではない、と思いたいが…。
この映画、ホモセクシャルの問題ではなく、大きく見れば愛情の問題だと、もしも言われても、やはり、そうではないだろう、と思う。
映画として、他のすべての要素が素晴らしくても、根本的なところで共感ができなければ、その映画が好きとはいえないだろう。
自分にとっては、それが惜しいところ。
私が他の方々の感想をいろいろと読んだかぎりでは、女性には、いい評判が多く見受けられ、あんまりねえ…というのは、男性のほうが多い傾向のように思える。
女性にはリアルな現実感がなく、逆に、男は自分の身になって考えてしまうからか?(笑)
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山の中で羊の番をして、男2人だけで何日も過ごす。
そんなシチュエーションは、男2人を変な気分にさせる舞台としては、じつに好都合だ。
よく、刑務所に入ったらカマを掘られるぞ、という話があるが、男しかいない状況では、そういうことになりやすいのかねえ。分かりません。
ジャックはイニスに出会う前から、男色の気がある。この仕事を選んだのは、そうした下心もあったのではないかと勘ぐってしまう。
イニスはそんなジャックに乗せられた形で、同性愛に踏み込んで抜け出せなくなる。
(初めての愛を交わす場面、経験はないから想像だが、行為のとき、ちょっと唾をつけたくらいで、すいっと入るものでもなかろう。映画とはいえ簡単すぎるのではないかと思う。よっぽどジャックが、それまでに経験が豊かで即OK状態だったのか? 原作をさっと立ち読みしたが、原作でも同じだった。)
結果的に同性愛の資質があったのだとはいえ、可哀想なのは、巻き込まれたともいえるイニスだ。
映画では、山を下りてジャックと別れるとイニスは、壁か何かを叩いて感情を爆発させていたので、はじめは具合が悪くなったのかと思い、やはり悲しんでいたのだろう、と思ったのだが、原作では、吐きそうな気分になったという記述がある。
無意識の悲しみのあまり、息も苦しくなって嘔吐感が出るのか。自分の、その反応を思い返せば、あの時、ジャックと別れるべきではなかったのだ、と後にイニスは知る。
彼は、結局は妻と離婚し、その後はジャックを想って、一人暮しをすることになってしまう。
人の運命って、どこでどうなるのか分からないものだ。
イニスはジャックと出会わなければ、普通の結婚生活をしていたはずだろう。
2人が再会してキスをするところを、イニスの妻が目撃してしまう場面で、場内から笑いが起こった。
なぜ笑うのか。
これは喜劇じゃないんだぞ。男同士のキスが気恥ずかしいのか?
まるで、理解できなかった。不思議。いったい、どういう意味の笑いなのか教えてほしい。
妻にとっては深刻この上ない事態の場面。
このシーンも含めて、妻のミシェル・ウィリアムス、好演である。
男2人の忍ぶ恋の話、のまわりにいる女性たちが負けずに素晴らしかった。
妻たち、イニスの娘、イニスを好きになる女、ジャックのお母さん…みんな存在感あり。
それぞれの心情が、よく出ている。
ブロークバック・マウンテンに行ったのが1963年、とセリフにしても言っているし、酒場でリンダ・ロンシュタットの「イッツ・ソー・イージー」が聞こえていて懐かしさいっぱいになったが、これが1970年代、ラストではイニスの娘が19歳になっているから1983年あたり、と年月の流れがしっかりと感じられるところも、よかった。
ラスト、イニスの言葉は「永遠に一緒だよ」などと映画では訳されていたが、英語としては“Jack, I swear…”だったようで、これなら「ジャック、俺は誓う…」だろう。
一緒、という翻訳に決めつけたら、問題があるのではないか。
イニス、この後は再婚もしないで思い出に生きるのか?
思い出にはケリをつけて、普通に再婚してほしいけど、かなり無理っぽいよね…。
不器用なイニスは、ジャックへの愛を、自分の中で、どう収めるのだろうか。
おまけ:2人が素っ裸で崖から湖に飛び降りるシーンがあるが、そのヒースのお宝ばっちりの裸を正面から連写した写真を見つけてしまった…。パパラッチがデジカメで盗み撮り? 見たい方は、Heath Ledger Nude などの言葉で検索してみると見つかると思うよ。(笑)
(4月1日)
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BROKEBACK MOUNTAIN
2005年 アメリカ作品
監督 アン・リー
出演 ヒース・レジャー、ジェイク・ギレンホール、ミシェル・ウィリアムス、アン・ハサウェイ、ケイト・マーラ、リンダ・カーデリーニ、ランディ・クエイド
トラックバックは、紅玉の甘い戯言様、虎の意地っぱり~何がなんでもタイガース様、ブロークバック・マウンテン@映画生活様に。
評価☆☆☆(3点。満点は5点)
● COMMENT ●
うわ、きた!
>紅玉さん
逆に、女性がレズの悲恋映画を観たら、どう思うのでしょうね。
私だと、レズは綺麗っぽく思えて、あまり抵抗がないのですけど。
はじめてでそんなに簡単にいかない…でしょー!? やっぱり、そう思いますよねー。わーい。(何を喜ぶか。)
笑いが起こることが多いんですね。ワケ分かりません、私には。
映画館にいると、たまに他の人と笑いのツボが違うな、と思うことがあるんですよね。
あ、永遠に一緒だよ、でしたか。文章、直しました。
結婚式の誓いのIswearに近いのかなあ。でも「俺は誓う…」なら、何を誓うのかは、ぼかされますよね…。
あの黄色いドレスの・・・。
ところで、割り込みで失礼しますが、
>逆に、女性がレズの悲恋映画を観たら、どう思うのでしょうね。
>私だと、レズは綺麗っぽく思えて、あまり抵抗がないのですけど。
何作か観たことはありますが、男性ゲイの作品よりは生々しくてリアルに感じますねぇ。嫌悪感は覚えないにしましても。男優さんにしろ女優さんにしろ、演じる役者さんによって生々しい度やリアル度はかなり違ってくるかもしれませんが(笑)。アン・リー監督はシャーリーズ主演でレズビアン女性の映画(ブロークバックの原作者の自伝なのかな?)を撮るみたいで楽しみではあるのですが、シャーリーズとケイト・モスだと綺麗になりすぎてしまいそうで、逆にリアリティが薄れてしまうんじゃないかと、今からお節介な懸念があったりします(笑)。
ところで、ミッシェル・ウィリアムズって、今年のオスカーのときに黄色いドレスと真っ赤な口紅でヒース・レジャーの隣にぴったりと寄り添っていた女性ですよね? とてもラブラブな雰囲気に見えたんですが、もしかして、この映画をきっかけにおつきあいしたんですかねぇ・・・。
>香ん乃さん
アンちゃん出てますよー。私は他の出演作、観てないですけど。
レズビアンの映画、記憶をたどっても思い出せない…オードリー・ヘップバーンとシャーリー・マクレーンの作品でありました。「噂の二人」でしたか。これは仲がいいからレズと思われた話です。観てないけど。
アン・リー&シャーリーズの映画でウワサされてるのは、歌手のダスティ・スプリングフィールドの伝記のようですね。
シャーリーズ、歌に自信があるとか…。
ケイト・モスが共演だと、それは、きれいでしょうねえ!
オスカーでのミシェルは記憶にないんですが、ヒースとはカップルみたいですね。共演で仲良くなったのかは分からないけど、どうなりますか。
TBありがとうございました。
どうしても少し引っかかりがあると、最後まで「その部分が・・・」ってなる映画って出会ってしまいますよね。
リンダ・ロンシュタットの「It's so easy」、大好きです。サントラで聞いていたのでいつかかるか、って待ってたんです。
あの場面で使われていましたね~(キャシー&イニス)
しかし、笑いが起きたとは・・・困りモンです。
>uniko@ニャンくんさん
リンダ・ロンシュタットの曲は、あまり知らないですが、この曲は有名ですよね。ほんと、なつかしー!と思いましたよ。
あの場面で笑った人、この場で説明してほしいもんです。まったく。(いませんかー?)
ヨコから大変失礼
「噂のふたり」が話題に上がっていたもので。
私、この映画が好きでして、実は「仲が良いからレズと疑われた・・」というのは
オードリー・ヘップバーンから見た視点でして、シャーリー・マクレーンの側からすれば、本当に・・・
ラスト近くに、マクレーンが泣きながら告白するシーンの切なさが、彼女しか表現できない芝居であることと
相手がヘップバーンなら、惚れる女性の気持ちは、さぞ深いものではないか・・・
などと、絶対に理解できない世界に共感させるものがあの映画にはありました。
あと、「大脱走」のチャールズ・ブロンソンと相棒とか
「スパルタカス」のトニー・カーティスとローレンス・オリビエ(だったっけ?)
印象深いものはありますが、男同士というのは絵ヅラが良くないですな。
>lalakiさん
ただ、あんまりオードリー・ヘップバーンに興味がないもので…。私には、いわば、マリリンの対角にいる女優というイメージなんですね。
ああ!「大脱走」のブロンソン! そういえば、そういう感じでしたね。
見てきました
ようやく映画を見てこれてようやく記事に出来ました~
ボーさん同様僕もどうやっても同性愛がテーマの映画は共感できずに今まで何度も嫌悪感だけが残って後味の悪い気分になっていましたが、この作品に関してはそれほどではなく、割とキレイなものを見たような気持ちになれました。
ボーさんの指摘する「ちょっと唾をつけたくらいで、すいっと入るものでもなかろう。」←これ爆笑しました。
僕も当然ながら未経験ですが、想像しただけでもそれはないだろ~って思いますよね!!
(^^;)
>mobeerさん
私も、テーマについては、いまいちでしたが、映像などは綺麗なものでしたよね。
演技も、よかったと思いますし。
2人が一緒になる、はじめての、あのシーン。映画では簡単に進めるのがいいのかもしれませんが、やはり、そう簡単には? と思ってしまいましたよねー。(爆)
ボーさんもmobeerさんも
二人が結ばれるシーン、やっぱりスムーズすぎて変だと思いますよね。(^^;
前に解剖医の上野正彦先生の本で「男性同士の行為の快感は、男女のそれよりはるかにスゴイことは医学的にも説明がつく」というようなことが書いてありました。詳細は省きますが。
ちなみに私はレズのシーンを見てるとやっぱり「キモチワルイな」って思っちゃいますね。でも描かれている愛情が深くて感動的であれば、結構グッときます。ちなみに「マルホランドドライブ」のナオミ嬢のせつなく苦しい思いにはグッときましたよ。・・・って、あれ!ボーさんのブログにもライフログみたいなのができてる!
>紅玉さん
むー、はるかにスゴイですか…それは…興味が…(なんてね)(後ろは狭いからでしょ?)(なんて、さらっと書いてみる)
身近なだけに、同性から見た場合の同性同士の行為は気持ち悪いと思うことが多いのかもしれませんね。
そう! エキサイトの「ライフログ」がいいなあと思って、似たような真似をしています。(ついでに買ってちょうだいな!)
「ムーラン・ルージュ」も「マルホ」も、また観たいよー!
TBさせていただきました。
最終日ってこともあり、すごくすいていたのですが、なぜか外国人のお客さまが多くて、無意味に緊張してしまいました(笑)。そうそう、BJさんがご指摘になっていたシーンでの笑いは起こったりしなかったので、少し安心した思いがしました。もしもあのシーンで笑い声が聞こえたら、自分はちょっと不快な哀しい気持ちになっていたような気がしますので。
ではでは、失礼致しました~。
>香ん乃さん
外国人が多いのですか! 六本木の映画館には結構多いのですが、渋谷も?
あの笑いは、実際なんだったのか不明のままです。照れ笑い? まあ、いいんですけど。
さきほど伺ってコメントしてきましたよ~。
>bellさん
英語字幕で見ているなんて、すごいですね!
I swear の件、やはり、そう思いますよね。あの場面は、とても大切な翻訳になると思われるので、引っ掛かっていたのでした。
何を誓うのかは、私にはよく分からなかったのですが、bellさんのような解釈もあるんですね。
私も、もう一度観たら気づくところもあると思うのですが。
自分にとって素晴らしいと感じる解釈があれば、それは素敵なことで、誰がなんと言おうと、それでいい、と思います。
また、遊びにきてくださいね!
それはオドロキであります。ほんと不可解。うーん。
そしてミシェル・ウィリアムスの心の揺れが本当によかったですね!
>まおさん
ミシェル・ウィリアムスも、アン・ハサウェイも出ていた、思えば豪華な配役でした!
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やっぱり女のほうが、ゲイを描いた物語はすんなり受け入れますよね。ボーさんの指摘するとおり、女からすると現実感がそれほどないからだと思います。男性はやっぱり肉体的感覚でよりリアルに受け止めるから「絶対理解できない」という人も多いんでしょうね。
二人が結ばれるシーンは、私も内心「はじめてでそんな簡単にいくわけないのでは・・・」と思いましたです。(^^;
イニスの妻が二人のキスを目撃するシーンは、劇場によっては笑が起こることがあるみたいで、あちこちのブログでも指摘されてました。私のときは「うわー、大変、かわいそう」みたいな苦笑的な雰囲気は少しありましたが、面白がってる笑いはなかったので良かった。終わったときは、映画の迫力に飲み込まれてるような場内の雰囲気でした。
ラストのセリフは「ジャック、永遠に一緒だよ」とか訳されてましたよね。「俺は誓う」のままにしてほしかったな。