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2023-06

「ぼくを葬(おく)る」 - 2006.04.30 Sun

ポスター。映画では、こういうシーンはありません。
「死」というものに、真正面から真摯(しんし)に向き合った映画。
31歳の写真家に突然訪れた、がんの宣告。余命は僅か。
彼は自らの死に、どう対するのか。

フランソワ・オゾン監督の「死についての3部作」の第2作。
公式ホームページにあるオゾン監督の言葉を借りれば、第1作の「まぼろし」は、愛する者の死を描いた涙なきメロドラマで、今回は、自分自身の死を取り上げる。(そして第3作は、子どもの死を扱うことになるだろう、ということだ。)
また、男性のメロドラマは珍しいので挑戦してみたこと、女性の目で見てほしいから女性の撮影監督を起用した、ともいう。
たしかに、繊細なカメラ視線が感じられる映画だ。

原題は、この世を去る時、という感じでストレートだが、邦題としては珍しく洒落ていて、いい。「葬る」を「おくる」と読ませるのも、うまい。

映画が始まって早々に、彼は病に倒れる。展開が早いなあ、と思ったが、映画が語りたいのは、死に直面した人間のことなのだから、余計なことは要らないのだろうと考えた。
医師は彼に真実を告げたが、これが日本なら、どうなのだろう。
彼がひとりで検査を受けたから、伝えるのも家族にではなく、彼しかいなかったわけだろうか。
それはともかく、助かる可能性は極めて少ないと知った彼は、治療を断る。

そこからは、父母、姉、祖母、恋人と、どう関わっていくかという話が続く。

ロマン(メルヴィル・プポー)と祖母ローラ(ジャンヌ・モロー)
(c) 2005 Mars Distribution/Jean-Claude Moireau. All rights reserved.

祖母には、50年以上のキャリアがある名女優ジャンヌ・モローが扮している。
彼女は1928年生まれだから、この映画では77歳くらい。お元気です。
顔のシワが、味のある年輪のごとくになる女優など、それほど、いるものではない。
初めて予告編を観たときから、そこにジャンヌ・モローが存在していたことで映画に重みが加わっていたのが分かった。
オゾン監督の映画は、どの映画でも、彼独自の感覚が強く感じられて、そこが好きで興味があるので、それだけで、観ることは決まっていたようなものだが、なんとジャンヌ・モローが出ているとは!
ということで、この映画は楽しみだったのだ。

さて、そのジャンヌの登場場面。決して長くはなかったが、やはり印象は深く残った。
なんと素晴らしい。女優というより、人間の貫禄としてのオーラが出ているよう。
素敵です、この、おばあちゃんは!(タバコは吸ってほしくないけど。)

主人公は同性愛者なのだが、ある女性に見込まれて、頼みごとを持ちかけられる。
この女性を演じるのが、前作「ふたりの5つの分かれ路」に主演していたヴァレリア・ブルーニ・テデスキ。彼女、監督お気に入りになったのかも。
死にゆく一方で、この世に彼が自分の「生」を、どう残すのか、という問題が語られていく。

ロマンと家族
(c) 2005 Mars Distribution/Jean-Claude Moireau. All rights reserved.

静か。全体的に、とても静かな映画
死に直面した、ひとりの人間の残された日々を見つめ続けた、その率直さ。
淡々と演じたメルヴィル・プポーは好演。

残された生の時間を、どう過ごすか。それを描く、いろいろな映画があって、いろいろな過ごし方がある。
たとえば、「死ぬまでにしたい10のこと」では、死ぬ前にやりたいことのリストを作って、前向きに生きていこうとする。「みなさん、さようなら」では、寂しくないようにと病床に友人や家族が集まってくる。
死の迎え方は、さまざまだ。
本作はオゾン監督流の、ひとつの解釈であり、ひとつの回答であるだろう。

ラストシーンは、「ふたりの5つの分かれ路」を少し思わせるが、もっと、すごい。
映画ならではの表現で、荘厳でもある。

「死」は「生」の完成形なのだろうか。

(4月29日)

下の写真は、劇場販売の前売券特典のアロマ・キャンドル2個。

前売特典のアロマ・キャンドル

LE TEMPS QUI RESTE (TIME TO LEAVE)
2005年 フランス作品
脚本・監督 フランソワ・オゾン
出演 メルヴィル・プポー、ジャンヌ・モロー、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、クリスチャン・センゲワルト

トラックバックは、ぼくを葬る@映画生活様FLIXムービーサイト様に。

評価☆☆☆★(3.5点。満点は5点)

● COMMENT ●

最近

オゾン監督って、すごい勢いで作品発表してますよね。ていうか日本後悔が立て続けなのでしょうか?
何はともあれ今フランスの監督で一番勢いがある方かもしれませんね。
が!今気がついた・・・私この人の映画、一本も見てない・・・(^。^;お、遅れてるわ・・・。

メルヴィル・プポーが主演なのでなんとなく気になってる作品です。ラストが結構「ウソー・・・」って感じだと聞きましたが、救いがない感じなのでしょうか。

>紅玉さん

フランスの若手監督では、最注目のひとりでしょう。
観るなら、おすすめは「まぼろし」。あとはミュージカルがイヤでないなら「8人の女たち」も面白いかも。

メルヴィル・プポーは初めて見ましたが、若いのに、いい役者ですね。
ジャンヌ・モローも見逃せない一品ですよ。

ラストは、あれこそ救いがあると思いますよ。ある意味、ベストかもしれません。

こんにちは!

ラストは、私もベストに近い形だと思いました。
喧騒から静寂に移っていって、
そこに波が寄せては返す音だけが静かに流れる・・・
とても余韻が残るいいシーンでしたね~

本作は一つの解釈でしょうね。
自分はどうかと考えると、ちょっと違うんですが。

>YANさん

こんばんは~。
そうですね、死を迎える形のなかの、ひとつ。シミュレーション的な映画といえるかもしれません。
自分だったら、どうなのか。…いやあ、分からないです。そのときに、どう思うのか、ですよね。


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