「赤線地帯」 - 2006.11.09 Thu
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(c) 角川ヘラルド映画 |
溝口健二監督の遺作となった作品。原作・芝木好子、脚本・成沢昌茂、撮影・宮川一夫、音楽・黛敏郎。助監督に増村保造が参加している。
映画のラスト。初めて吉原の店に出る生娘の少女が、ようやくのことで男を誘う呼び声を出すが、すぐに柱の陰に隠れてしまう。
彼女は、これから男に体を売って生きていかなければならない。その未来の始まりが映画の終わりだ。何という終わり方!
また、それが溝口監督の映画の最後のシーンになったことが印象深い。
売春防止法が国会の論議に上がっている当時の吉原の店が舞台。
若尾文子さんは、口八丁で男を手玉に取り、金を巻き上げ、同僚に金貸しまでしている、クールな、しっかり者。
京マチ子さんは、関西から来た娘で、借金だらけでも気にせず、ズケズケものを言い、ズべ公などとも呼ばれている。
小暮実千代さんは、病気の夫と赤ん坊を持ち、生活のために「通い」で働いている。
三益愛子さんは、息子を育てるために働いている。
町田博子さんは、この仕事が嫌になり、故郷へ帰ってみるが…。
若尾さんは冷たいまでの現実主義者ぶり、京さんは若々しい(妖艶な「雨月物語」よりも後の作品とは思えない)、小暮さんは生々しい貧しさの生活感ありすぎ、三益さんは息子に捨てられる残酷さ、町田さんは仕事に疲れた悲哀…。
それぞれの女の人生が鮮やかに描き分けられる。
一方で、こういう商売があるから、おまえたちは生きていけるんだ、とばかりの演説を繰り返す店の主人をはじめ、男たちの情けないことよ。
溝口監督自身の思い(自分も郭通いをしていた反省?)が、女郎に関わる男たちをおとしめさせているのだろうか。
黛敏郎の音楽は電子楽器(クラヴィオリンというものらしい)を使い、怪談のようで、奇妙。面白いが、映画に合っているのかどうかは疑問。実験的に過ぎないか。
仕事をやめるようにと、父親が京マチ子に会いに来るが、その甲斐なく帰っていくところで、京さんが、こんなセリフを!
「けったくそ悪(わる)。大メロドラマやな。ひと風呂浴びて、マリリン・モンローでも観てきたろ」
最初に聞いたとき、ええっ!と思って、言葉が聞き取りにくいので、何度もテープを巻き戻して確認した。
1955~56年あたりなら、確かにマリリンの映画も上映されていたのだ。
派手でアプレゲール(戦後の若者の無軌道さを表わした流行語)な京さんの役ならば、マリリンを観に行く、というのは、いかにも似合う。
こんなところにも、マリリンが出てくるんだねえ! 嬉しいよ!
(11月5日)
1956年作品
監督 溝口健二
出演 若尾文子、京マチ子、小暮実千代、三益愛子、町田博子、沢村貞子、進藤英太郎、川上康子
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アスカ・スタジオ様
評価☆☆☆★(3.5点。満点は5点)
● COMMENT ●
>まおさん
録画してあるのですか! なるほど、落語などでも赤線に興味をお持ちなのですね。
売春防止法は、この映画公開の年に成立し、それが影響して映画もヒットしたそうですよ。
しかもマリリンがセリフに出ますから!(すごく聞き取りにくいです)
観てくださいねー。
いつもは色っぽい有閑マダムという雰囲気の小暮実千代さんが眼鏡をかけた貧乏で生活に疲れた主婦兼女郎という役でその変わり様に驚きました。
<マリリン
なるほどー、京マチ子演じるミッキーの歩き方はモンローを真似しているという感じでしたよね。
5人それぞれが個性的で面白かったです。
<クラヴィオリン
私もこれの使用ははたして良かったのか疑問です。当時流行っていたんでしょうか…?
>ぶーすかさん
京さんの歩き方までは見てませんでしたが…さて、どうだったでしょうか。
音楽については…一種の怪談話と思えばいいのかな?なんてことも考えたりして。(無理矢理ですね~。)
セリフにマリリンですか!
50年代、女性はあまりひとりでは映画を見に行けなかったらしいです。というのも、当時の映画館は狭い所が多く、殆どが立ち見になり、しかも満員電車のようなぎゅうぎゅう詰め。しかも上映中は暗がり。そんな中に女性がいたら、痴漢行為をされかねないです。しかも、それを見越して売春まがいの女性がわざと独りで映画館に入りスケベ親父からお金をふんだくる、という事もあったようで、京さんのセリフももしかしたらそういう意味合いがあるのかも、なんて思いました。(この映画、観ていないので、解釈がおかしかったらスイマセン)
ちなみに50年代当時の『映画館は不良の行く所』といわれた理由も、暗がりの中で何をするか分からない、という意味合いからだそうで、映画を観るのが悪いという訳では無かったらしいですよ。
さて、当時だとマリリンの何の映画を見に行ったのでしょうか。やはり『七年目の浮気』かな。
>たけしさん
この映画では、単なる気晴らしに観に行こう、という雰囲気に感じました。
ハイカラっぽい役の京さんが映画を観に行くんだったら、マリリンかな、というイメージでしょうか。
観たのは、やはり「七年目の浮気」でしょうねえ。日本では1955年の11月公開ですし!
同じく芝木好子さん原作の『洲崎パラダイス/赤信号』を観てから、こういった描写をされる日本とその時代の女性たちにとても興味があります。登場する女性たちが、格好よくて、粋で、それ以上に懸命で切羽詰っていて、実直で。そのリアルさが、とても好きで。
売春の是非がどうとかはとりあえず横に置いて、とても興味をそそられました。機会があったら観てみたいです。不勉強で、溝口監督の作品をほとんど観たことがないんです(^^;) 観たい溝口さん作品はとても多いのですが……。
>香ん乃さん
原作者から興味をお持ちなのですね!
ただ、本作の脚本の成沢さんは、溝口監督の弟子みたいな方という話なので、けっこう、溝口好みなストーリーに変えている可能性もなきにしもあらずかも?
私も溝口映画は、やっと最近観たところ。機会があれば、ぜひ、ご覧ください。
遺作のラスト
そのセリフは聞き取れませんでした。
なんとも痛快なセリフですね。
その小気味よさといったら「ない袖は触れん」など、
ぜひとも粋に自分も活用してみたいです。
ラストシーンと遺作、
こちらを拝見してなんだかドラマティックに思えてきました。
これからも映画を見て生きたいです。
>現象さん
あのセリフは聞き取りにくかったです。「マリリン・モンロー」には耳が反応してしまうので(笑)。
早口で話すと分からないですね、日本語でも。
ラストシーン、けっこう臆面もなくやってくれるなあ、という気もしました。それだけメッセージとしては強いと感じます。
どうぞ、また遊びにきてください!
遅々からのコメントです。
いい訳になるかも知れませんが、当時の映画の音声技術は、デジタル時代の現在に比べると、可成り酷いものでした。
俳優のセリフが肉声からは遠くかけ離れた、独特の人工的な声でしたもの。音声波形を見たら可成り歪んでいたと思います。そんな影響もあったのかと、、。
家庭の真空管式ラジオ受信機も、4球タイプから、5球スーパー・ヘテロダイン方式になり、スピーカーも金切り声のマグネティック・スピーカーから、柔らかいダイナミック・スピーカーに代わって間もない頃だったと思います。
「Allways 三丁目の夕日」の時代まで、確かあと3~4年の時期でした。
>アスカパパさん
私もマリリン好きでなければ、何を言ったのか聞き流したと思います。
弱く発音する部分は、ほんとに聞きづらいです。
しかも「マリリン・モンロー」なんて、一瞬で言ってしまってましたし。
「三丁目の夕日」の時代、と言われると、あの映画は私も観ていますから、想像つきますね。
ゆめ子は、子供のために売春宿で働いていたけれど、それが理由で息子から嫌われることになった.子供のために頑張って仕事をしようとした姿を子供に見られて、嫌われることになった.つまり、当時の売春婦は、正しいものと間違ったものを、同時に持ち合わせた職業であったと言うことができる.
簡単に言ってしまえば、正しいけれど間違っているんだ、他の売春婦達も皆このように描かれているのですが、さて、彼女たちの雇用主、売春宿の主の言葉、正しいように思えるけれど、本当に正しいかどうか?
あるいは、言っていることが正しくても、売春婦の上前をはねる商売を、正しい仕事と言えるのか?
こう考えると、彼の言葉を訂正する必要があるのが分ります.
『野党の奴等、売春婦は日本の恥だと言いやがる』->『売春をしなければ生きて行くことが出来ない人間が居ることは、日本の恥である』
『俺達は、国の代わりに社会事業をやっているんだ』->『国が弱者のために、きちんと社会事業をやれ』
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音楽を嫌う方が多いようですが、描かれたとおり、売春婦の実態、嫌な物を描いた背景に、嫌な感情を抱かせる音を聞かせたのは、ごく自然な方法だと思います.面白がって何度も見るような作品ではありません.
>ルミちゃんさん
ただ、もう記憶が薄れているので、いろいろ書かれても、ああ、そうなのかなー、くらいしか反応できませんので。。。
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赤線の話は落語の枕にも出てきたり、赤線後の写真集を見たりしたので、興味があるのです。
全国各地にあったのですよねー。
非合法の地域は「青線」て言うんですよね。なんだか、信号の色と逆だなーと思った覚えが(笑)
マリリンの時代なのですね! しみじみ。