「それでもボクはやってない」 - 2007.03.10 Sat
彼が捕まるところから始まり、最初の裁判が終わるまでの様子を克明に追う映画。
ボクはやってない、というが、ほんとにやってないのだろうか、と、観ている間じゅう、ずっと思っていた。
痴漢があったと考えられる現場のシーンは、映画には出てこない。
だから、やっているかもしれないではないか。
そう思ったら、この映画、いけないのだろうか?
監督の狙いは、そこには、ないのか。
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(c)2006 フジテレビジョン アルタミラピクチャーズ |
疑わしきは罰せず、というのが原則。もしも無実なのに有罪にされたら、たいへんである。
だが、有罪だったとしたら? 確かな証拠がない限り無罪、ということで、本当は痴漢なのに無罪になったら、それは女性にとっては許しがたいことに違いないのだ。
そのあたりが難しい。
それは置いても、問題なのは、警察の対処のしかたである。
確かな証拠がないのに、「自分がやりました」といえば、罰金を払って、すぐに釈放、「やってない」といえば、そのまま拘留。それは、おかしいでしょう。
声を荒らげての暴力的な刑事の取り調べに遭ったら、普通の人なら怖くてしょうがない。
権力をかさにきての横暴といわれても、しかたがないではないか。
(ちなみに、この映画で横暴な刑事に扮した大森南朋<おおもりなお>、いいですね。NHKのドラマ「ハゲタカ」にも主演していて、ちらっと見ただけだけど、なかなかいい感じ。)
無罪を出すのに慎重な裁判官の姿も、よく分かった。
小日向文世演じる裁判官の事務的ともいえる冷たさ。考えさせられた。
しかし、最後の判決文を聞いていると、なんだか納得できてしまうのだね、これが。
先日、鹿児島県議選において投票依頼に絡み現金を授受したとして、12人が公職選挙法違反の罪に問われた事件に、無罪判決が出た。
この事件では、被告たちは自白を強要されたという。
取調官から、追及的・強圧的な取り調べがあったことがうかがわれる、というのだ。
そもそも事件というものはなかったと、一部の刑事は分かっていたとか。
強権を得た人間が、それを、どう使うべきなのか。それを当事者は考えてもらいたい。
この映画が公開されたからといって、警察や司法が劇的に変わるとは思わないが、こうした実態を映画にすることで、少しでも納得の行く社会に近づいていってほしいと思う。そうした意味では、価値のある映画なのだろう。
それに、そうしたことを抜きにしても、観ていて飽きない社会派エンターテインメントといえる。
役所広司さん、売れっ子ですよねえ。瀬戸朝香さんが弁護士かと思ってたら、役所さんも弁護士で、しかも上司。彼のほうが目立ってるじゃないですか。
裁判を描いた映画は、洋画でも面白いものが多いけれども、こちらも負けず劣らず。
公判の後に、弁護士と被告の関係者たちが、お茶しながら裁判のことを語り合う形にしているのが、うまい構成で、裁判の進展やポイントを分かりやすくしている。
「Shall We ダンス?」の周防正行監督が11年ぶりに放つ新作として、過不足のない、じゅうぶんに手応えのある一作でした。
しかし監督、11年も何してたんでしょう。
それでも彼は、食っていけるんですねえ。
(2月24日)
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(c)2006 フジテレビジョン アルタミラピクチャーズ |
2007年作品
監督 周防正行
出演 加瀬亮、役所広司、瀬戸朝香、もたいまさこ、山本耕史、鈴木蘭々、柳生みゆ
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評価☆☆☆★(3.5点。満点は5点)
● COMMENT ●
TBとコメントありがとうございました。
>アスカパパさん
無罪と分かる描写があるのに見逃しているのではないか、と思ったりもしています。
自分がこんなハメに陥ったらどうしよう、とコワイ話ですね。
エロビデオを持ってたら、やっぱり痴漢をするようなヤツなんだ、と短絡的につながってしまうのもコワイです。(笑)
問題提起とエンタメが上手に噛み合った良作だと思いました。
加瀬亮クン
確か、『硫黄島からの手紙』にも出演してませんでしたっけ?
彼の情けなくも同情票を集めそうな風貌がウケるのでしょうか。
いかにも冤罪のターゲットになりそうな、でも、別の視点から見れば、
「ひょっとしてやってたりして?」を匂わせる風貌でもあり・・・。(あ、失言?)
ま、私は大森南朋さんの方が断然好みですけど。
>小夏さん
その後観た「スクラップ・ヘブン」でも見たし、よく出てます。
ひょっとして…というふうに見えますよね。疑えば誰でもそうとも言えますが。
大森南朋…好みのタイプが、また判明いたしましたねえ。データに加えておこう!(笑)
TBさせていただきました。
>タウムさん
本では、映画で表現できなかった以上の、監督の考え方が出ているようですね。
もしも手に取ることがあれば、チェックしてみようかなとも思います。
TBお願いします^^
「実はやってるんじゃ」とは私は思いませんでしたよ。
もしやってたとして、なおかつあそこまで「やってないんだ!」と言い張れるなら
一種の精神異常なのでは。
まあ「引っ込みがつかなくなった」と考えられなくもありませんが・・・★
昔こういう痴漢冤罪のTV特集を観ていた時
「駅員室に行ったら最後」なので「とにかく走って逃げろ」という結論になって
それでいいのか?!と強く思ったんですが
まさにこういうケースの事を言ってたんでしょうね~
でもそれで本当の痴漢が逃げたら悔しいので、こっちとしては死に物狂いで追いかけますが☆
>わさぴょんさん
私の、やってるんじゃないのか~?という意見は、まさに刑事や検事の思いと一緒みたいですね。(笑)
やってても、あくまで否定する人っているような気がするので。
証拠というのは難しいもので、目撃者だって、それが勘違いという場合だってあるかもしれないし…。
巻きこまれないことが、いちばん、ということになるのでしょうか。
私もやっと
最初の痴漢の現場シーンは、あえて明確にしてなかったですね。
それは、主人公の主張だけじゃなく、
いろんな立場の人の、主人公を不利にさせる主張にも、
無理はないなあと思わせるためでしょうね。
第三者的立場としたら、彼はグレー。
でも本当にやってない者にしたら、こんな絶望的状況はないです。
絶対に巻き込まれたくないですよね!
ボーさんも気をつけてくださいね。エロビデオを持っているなら、なおさら(≧ε≦)
周防監督が丁寧に丁寧に作り上げたんだなあと分かる作品でした。
>YANさん
もしも何もやってないのに、あんなふうなことになったらと思うと、怖すぎます。疑わしきは罰せず、という言葉もあるのに。
私もテレビ放映のとき、最後だけ偶然見ました。
裁判官、小日向さんですねえ。おなじみすぎ。
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さて、ボーさんの鑑賞記を拝読しました。
ボーさんの冷静な鑑賞眼に脱帽です。
そう言われれば、痴漢の現場シーンはありませんでしたね。
私は、怪しい男の不審な態度。傍らの女性の「この人はやってない」という証言。弁護士の論理的な説明。などから「徹平は犯人ではない」と思い込みました。
何れにしても「人を裁くことの難しさ」を、この映画は訴えていることには変わりありませんよね。